Sister
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第1話 プロローグ~始まり~
わたしのお姉ちゃんは人気者。
それは、みんなが知っている。
お姉ちゃんの周りにはいつも自然と人が集まった。面白い話が出来る訳でも、特別頭良い訳でも、特別美人という訳でもない。それでも人は集まってくる。わたしが知っているお姉ちゃんは、もうずっと、人気者なのだ。
「お姉ちゃんにソックリね」そう言われてきたわたしの周りには、人は集まらない。似ているのは顔だけ。お姉ちゃんにあって、わたしには無いもの。もう、随分前に気が付いた。気が付いたからといって、自分に無いものは、どうしようもない。頑張りたくても、どう頑張ればいいのか分からない。
「やっぱり女の子は愛嬌よね!」にっこり笑うお姉ちゃんの顔を見た人はみんな、親戚の人とか近所のおばさん、知らない人からも、そんな風に言われてた。子どもだけど、その言葉の意味を、わたしは分かっていた。
お姉ちゃんはただそこにいるだけで、ほんの少し笑っていればほめられる。そしていつも優しいお姉ちゃんは、わたしの自慢。顔は似ていても“あいきょう”のない私は、お姉ちゃんの影になるだけだ。
あの日、学校で居残りをさせられたせいで、帰りがいつもより遅くなった。少し急いで家に帰ったけどお姉ちゃんの方が先に帰ってて、リビングの真ん中で、テレビを見ているでもなく、窓の外を見るでもなく、何となくぼんやりとした感じで、ただ立っていた。その足元には、私のお気に入りのぬいぐるみがあった。
「お姉ちゃん、それ……」
控えめに訴えた私に気付いたお姉ちゃんは、今初めて気が付いたみたいにおどろいて、踏んでいたウサギのぬいぐるみから足をはなした。
「あ、ごめん」
本当に、踏んでいたことなんて全く気付いていなかったみたいに、自然にあやまられた。気付かないなんて、おかしいと思った。
「うん。いいよ」
いいはずなかった。本当はすごくすごく、怒りたかった。たけど、お姉ちゃんの様子がちょっと気になって、怒ることができなかったのだ。
三ヶ月に一回、一ヶ月に一回、一週間に一回、だんだんお姉ちゃんが私のぬいぐるみを踏むことが増えていった。三回目までは、またか、って思っただけだった。でも、四回目の時に気が付いた。たまたま、なんかじゃない、って。そしてそれは、お姉ちゃんも自分で気付いたみたいだった。自分が何をしているのか、ってことに。
お母さんもお父さんも、気付いていない。だって、お母さんとかお父さんがいる時にはやらないんだから。これは、わたしだけのひみつ。
お姉ちゃんは、もう、わたしにあやまることもしなくなった。ウサギはすっかりぺちゃんこになった。“何かを踏んでいる”感覚は、あまり感じられなくなっちゃったんだと思う。だから、たからウサギの代わりが必要になったんだ。
あいきょうってのがあって、みんなに優しくて、誰でもみんながお姉ちゃんを好きになる。いつもにこにこ笑っている。お姉ちゃんの周りは何だかほんわかしていてあったかい。
そんなお姉ちゃんを、一番好きなのはわたしだ、って思う。
みんなの人気者が、わたしのお姉ちゃんなんだ。わたし
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