第3章 南の島
南の島(1)
少女は、浜辺を散歩していた。
すでに何もかも知り尽くしているこの島の浜辺を散策したところで、彼女にとって特に新しい発見があるわけではない。
しかしそれでも、ごくたまに潮の流れに乗って、遠くの島の物が流れ着くことがあった。それらはたいてい、何かの瓶やら木片やら役に立たない物ばかりであったが、それでもこの島から一歩も外に出たことのない彼女が、遠い異国へ想いを馳せるには十分な代物であった。
その日も彼女は、たいしたあてもなく浜辺をぶらついていた。
収穫といえば、ちょっと珍しい貝を拾ったくらいで、変わったことなど一つもない。
空は高く、水平線は青く、すべてが平和で、すべてが退屈――。
だから彼女が波打ち際で倒れている人間を見つけた時も、「またか」と思っただけだった。
ラムを飲んで酔いつぶれた人間が、浜辺で昼過ぎまで寝ていることなど、この島ではたいして珍しいことでもないからだ。
(こんな時間まで寝ているなんて、本当にだらしないんだから……)
この島では一週間に一度、島民全員が集まっての宴会がある。
その宴会の席で、島の男達は競い合うように酒を飲むのだが、彼女はそんな島の習慣が好きではなかった。いくらたくさん酒が飲めようと、翌日がこれでは、せっかくの男前も台無しである。それゆえ彼女は、一瞬その男を放っておこうかとも考えたが、しかしやはり考え直して起こすことにした。
(あまり気が進まないけど、高波がきたら危ないもんね)
彼女は仰向けに横たわっているその男に近付いたが、その姿を確認して、思わず悲鳴をあげそうになった。
男は眠っているわけではなく溺れて意識を失っているようだったし、それに顔立ちといい服装といい、明らかにこの島の人間ではない。彼女にとって、生まれて初めて見る外の世界の人間だ。しかし今は、ゆっくりと見ている場合ではない。どうやら死んではいないようだが、このまま放っておけば命が危ないだろう。
そんなわけで、彼女は慌てて人を呼びに行ったのだった。
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