ニア・デス・バースデイ

地底人ジョー

the day

 何が起きている?

 なぜだ?

 何故?

 疑問が頭を覆い尽くす。私は自分の見ているものが信じられず、また自分が何を見ているのか理解できなかった。

 いや拒否したのだ。

 脳が、理解を拒否している。


 ――彼女は、まるで眠っているようだった。


 そのほつれた髪は、今朝ベッドで撫でた時のまま艶やかだったし、着ている服は、先週10回目の記念にプレゼントした、お気に入りと顔を綻ばせていたドレスだ。


 ――彼女は何も変わっていない。そう見えた。


 唯一違うのは、その首に巻かれた細い紐だ。

 ようやく見つけた新しい家。二人で寝られるだけのベッドを置いても、まだ部屋の余っている家。そこへ越すために買ってきた紐は、一足先に、彼女を遠いところへと連れ去ってしまった。

 私を置いて、一人で。なんの荷物も持っていかずに。

 ふと、私が彼女と暮らし始めた時の事が頭をかすめた。

 あのときは、私が何もかも投げ捨てて、彼女を選んだ。それがけじめだと思ったし、そうすることでしか彼女の元へいられなかった。

 私にとって、彼女だけが荷物であり、生活であり、人生だった。

 そして、彼女もそうだと思っていた。

 だが、彼女は私を置いて、一人で去ってしまったのだ。


 ――そんなこと、あり得るだろうか?


 そう、これは、きっと彼女のイタズラだ。イタズラ好きな彼女だった。

 そういえばそうだった。

 いつも私の事なんて聞かず、驚かされてばかりだった。私は驚くことが苦手だから、そうしたイタズラの後は、いつも少し、すこしだけ不機嫌な顔をしていたものだ。そうすると彼女は慌てて謝り、私の事を好きだといってくれるのだ。

 そう、だから私は、今は不機嫌そうな顔をするべきなのだ。そうすれば、またいつものように彼女は困ったような顔をして、好きだと言ってくれるはずだ――。

 けど、なぜだ? 私がこうして不機嫌そうな顔をしているのに、なぜ彼女は好きだと言ってくれないのだ?

 なんで、私がイラつくと言った、祈るような微笑みをずっと浮かべているのだ?

 わからない。

 何も分からない。


 ――わからないなら、聞くしかない。


 そう思って、いつものように問いただそうと、彼女へ近づいた。

 カサリ、と何かを踏む感触。

 広げてみると、昨日彼女へと食べさせてあげたケーキ、そこに敷いてあった紙ナプキンだ。


『××××× たんじょうびおめでとう。わたしがたったひとつあげられるものをあげます。ありがとう。ごめんなさい』


 あぁ、なんだ。

 そうか。

 今日は私の誕生日だったのか。

 今日が私の誕生日だったのか。

 そうだったんだね。

 ありがとう。


 ありがとう。

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ニア・デス・バースデイ 地底人ジョー @jtd_4rw

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