第114話 情報収集
3日、時間を稼ぐとなって俺達は……飛行艇を飛ばさずに水面を走らせる形で、あの本部のあった島へと向かい情報収集をすることにした。
ラインの仲間達の話によるとあの化け物は寝てくれているらしいが……それはあくまでライン達が確認した段階での話。
今はもう起きているかもしれないし、巣作りをしているかもしれない。
あの化け物が数を増やしているとなったら3日も待ってはいられない、すぐに戦う必要があり……そこら辺のことを確認するための情報収集だ。
いざ戦闘になった時を考慮して向かうのは、俺、クレオ、アンドレアとジーノのフル戦力。
無反動砲弾も機関銃もしっかり装填した状態での出撃だ。
もし仮に化け物が尚も寝ているならば、攻撃のチャンスなのだとしても手出しはしない。
寝ているならそのまま、出来る限り寝ていてもらって……あの化け物を倒せるだろう算段が整う3日という時間をどうにか稼がなければ。
そういう訳で昼過ぎ。
奴がいる島まで後少しという所まで進み……そこでエンジンを切り、望遠鏡を構えて……揺れる波の力でもって前へと進みながら化け物の様子を伺う。
奴も俺達のエンジン音はさんざん聞いているはずで、その音を聞けば敵が来たと気付くはずで……それで起こしてしまっては元も子もないと考えての作戦だったのだが、予想以上に上手く行ってくれたようで……俺達に気付くことなく、寝続けている化け物の姿を望遠鏡が捉える。
八つも首があるのだから、どれか一つが起きているかとも思ったのだが……そんなこともなく、首同士が絡まり合うこともなく、すっきりと折りたたまれた状態で全ての首の目を閉じていて、微塵も動こうとせずにまるで岩のようでもある。
「……寝息で上下するとか、寝返りを打つとか、そういうこともしないんだな、あの化け物は」
望遠鏡を覗き込みながら俺がそんなことを呟くと、後部座席で同じく望遠鏡を覗いているアリスが声を返してくる。
「みたいだね。
……ああ、でも全く動いてないって訳でもないようだよ、ほらあの胸の辺り。
私達が最後に無反動砲を撃ち込んだ傷が……蠢いてる」
そう言われてそちらへと望遠鏡をやると、確かに傷の辺りが蠢いているようで……いや、よく見てみるとあれは……、
「傷が治っているのか……。
見て分かる程に傷の治りが早いってのはとんでもない回復力だな」
剥き出しになった肉がじわじわと蠢き……蠢きながら膨れ上がり、あるいは他の肉と繋がり、そうすることで傷を塞ぎ……うごうごと表皮を形成していく。
甲殻や鱗を作るのには時間がかかるのか、ひび割れたり剥げたりしているとこは俺達が傷つけた状態のままになっているが……それもいずれ、いくらかの時間が経った後に治ってしまうんだろうなぁ……。
「あの調子で、完治するまではどのくらいかかるか……。
完治するまで寝たままでいてくれるなら楽なんだがな……」
その様子を見ながら俺がそう言葉を続けると、アリスが「うーん」と唸り……何か小さな声でブツブツと呟き始める。
一体何をしているのだろうと振り返って後部座席を確認してみると、アリスは望遠鏡を片手で構えたまま、もう片方の手で懐中時計を構えていて、望遠鏡と時計を交互に何度も何度も見やる。
「……傷の治る速さを計測しているのか?」
その様子を見て俺がそう声をかけると、アリスは無言で……いや、何かをぶつぶつと呟きながらこくりと頷く。
計測しているだけでなく何かを計算しているようで……俺はその邪魔をしないように黙り込む。
周囲を漂っていたクレオもアンドレアもジーノも、アリスが何かをしているのを察したらしく、何も言わず何もせず、それが終わるのを待ってくれて……そうして数分が経った頃、アリスが声を上げる。
「多分3日……傷の大きさと速度から計算すると、完治までは3日かかるよ、アレ。
もちろんもう少し計測してみる必要があるし、明日も回復速度が変わらないかの確認に来る必要があるだろうけど、それでも速度が変わらないなら完治まで3日……だと思う。
奴が完治前に起きるとか急激に回復速度を上げるとかしない限りは、なんとも都合の良いことに、私達は何もせずに時間を稼げることになるね」
俺だけにでは無くぐるりと周囲を見渡しながら、クレオやアンドレアやジーノにも向けてそう言うアリス。
その言葉を受けて俺達は全員同時に望遠鏡を覗き込み……化け物の様子を見やりながらほっと安堵の息を吐き出す。
3日間戦い続けるだとか逃げ回るだとか、そういうことも覚悟していたのもあって、その安堵の息は本当に深いものとなり……深い深い息を吐き出し終えた俺は、すぅっと息を吸い込んでから……望遠鏡から視線を外す。
「アリスがそう言うなら恐らくそうなんだろうし、そのつもりで行動したほうが良さそうだな。
この後しばらく監視を続けて、明日も監視を続けて……回復速度が変わらないなら、3日かかるものと思って行動するとしよう。
俺達も体を休める必要があるし、機体の整備も本腰を入れてやる必要がある。
……今日明日動きがないなら、明後日はそういった準備の為に費やすとしよう」
望遠鏡から視線を外し、皆のことをぐるりと見渡しながら俺がそう言うと、皆はこくりと頷いてくれる。
この判断はかなりの賭けだったが、整備を全くしないというのも賭けとなるし、ここで監視し続けるというのもまたそれはそれで賭けになるというか問題がある。
ある程度のリスクは覚悟の上で、一番良いと思った手にオールイン、全チップを賭ける必要があるだろう。
「……まぁ、問題があるとすればあのランドウがアレに通用する物を、しっかりと仕上げてくれるかってことなんだが……そこはまぁ信じるしかないかな」
実のところ化け物の回復速度よりも、アリスの計算よりも、そこが一番不安だったりするのだが……そのことは口に出さず、できるだけ考えないようにせず、化け物の監視を再開させる。
他に良い手がある訳でもなし、ランドウ以上のことが俺に出来る訳でもなし。
ダメだったらダメでその時にまた次の手を考えれば良い。
そんなことを考えながら俺は……波に揺れる飛行艇の上で、化け物のことをにらみ続けるのだった。
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