第104話 遊撃隊救援作戦


 飛行艇に乗り込んだならエンジンを回し……海水を走り、速度を上げていって、離水して空を舞う。


 そうしたならあの場を離れる際にくすねた海図を睨み……海図にさらっと書いてある、遊撃隊戦闘中との地点へと機首を向けてそちらへと飛んでいく。


 そこは群島地帯から更に北の何もない海の上で……そんなに時間のかからないうちに、遊撃隊と変異種共が視界に入る。


 遊撃隊は既に壊滅状態と言って良いだろう、見える範囲で残り10機程で……弾切れなのか何なのか攻撃もせずに、変異種の小さな首から絶え間なく吐き出されている敵の攻火球撃を回避することに徹している。


 それに対する変異種共は、以前俺達が見たのよりもかなりでかい、飛行艇を丸呑みにできそうな化け物ばかりで……数は20か、30か、ぱっと見ただけでは数え切れない程に多い。


 あの数を前によくもまぁあの無茶苦茶な攻撃を回避し続けられるものだなと感心しながら俺は、アリスに声をかけ、遊撃隊に向けて光信号を打ってもらう。


 内容は『交代』『任せろ』『撤退』の繰り返し。


 こちらが見ている余裕があるのかは謎だが、見ているならそれで通じるはずだ。


 そんな信号を繰り返しと送ってもらいながら俺達は……アンドレアを先頭にぐんと高度を上げていく。


 変異種共の頭上を取るために、変異種共からある程度の距離を取るためにぐんぐんと昇っていって……俺達がそうしているうちに信号を見てくれたらしい生き残り達が、限界まで上げていたらしい速度と切れ味でもって旋回し、後方へと飛び去っていく。


 変異種達はその姿を見やりながらも追いかけようとはしていない。

 逃げ去る連中よりも俺達のほうが気になるようで、その複数の首をこちらへと向けて……その口の中で真っ赤な炎を唸らせている。


「……じゃぁ、作戦通りに行くか」


『りょうかーい』


 俺が通信機に向かってそう言うとアリスがそう返してきて……アリスが今度はクレオへと光信号を送る。


 飛行艇までの移動中、軽く話し合った方針……。

 生き残りを逃し、連中を迎撃拠点と誘導し……そのついでにある程度の打撃を与えておくという方針に従って……クレオがひらりと旋回し、機首を真下へと向けてその両翼の、機体全部は無理だからと砲だけ真っ赤に塗った無反動砲の先を、真下の変異種共に向ける。


 クレオの無反動砲はそれぞれ2発まで撃てる仕組みとなっている。

 1発撃ったなら即座に給弾装置が働き、もう1発が装填されるという形だ。


 弾が大きすぎることもあってそれ以上の搭載は無理だったとかで、更に撃ちたければ手動での装填作業が必要で……そういう訳で俺達は物のついでというかなんというか、行きがけの駄賃に出来る限りの攻撃してやろうと思い立ったのだった。


 無反動を撃つだけ撃って迎撃拠点に連中を引っ張っていって……迎撃拠点の連中が戦っている間に、装填を済ませてもう一度ぶっ放してやる。

 ……いやはやまったく、これ以上ない最良の作戦と言えるだろう。


 そして……そんなクレオの構えを見て何かを感じ取ったらしい変異種共がその一番大きな首の、一番大きな口をぐわりとあけて、こちらに火球を吐き出そうとしてきて……そこに独特の、花火でも打ったのかというような発射音が響き、両翼から同時に2発の無反動砲が発射される。


 口径の大きさの割に静かに、反動もなく発射されたそれは、かなりの速度でもって変異種共の口へと向かって突き進み……変異種共が火球を吐き出すよりも早く着弾し、凄まじい轟音と爆発が着弾点から周囲へと広がり、試作品とは比べ物にならない威力でもってその首と半身を吹き飛ばす。


 そんなとんでもない威力を持つことになった無反動砲での攻撃の成功を確認し、クレオに続く形で旋回して真下へと機首を向けた俺達は、爆発に怯み動揺し、動きが乱れてしまっている変異種共へと向かって、機銃を乱射しながらエンジン全開で突っ込む。


 これだけデカイのならわざわざ狙いを付ける必要はないだろう。

 連中の攻撃がいつ飛んできても良いように、いつでも回避行動を取れるように神経を尖らせながらトリガーを押し込み続けて……そうして連中の間をすり抜けていく。


 すり抜けたなら即座に機首を上げて機体を水平に戻し、それぞれが好きな方向へと散開して距離を取って体勢を整えようとする……が、そんな俺達を追いかける形で、無事だった連中のいくつもの小さな首からまるで機関銃のように小型の火球が連射される。


 発射された火球は、俺達の後方から凄まじい音と熱を発しながらこちらへと迫ってきて……それを飛行帽の中に押し込んだ耳と、外に露出している体毛から伝わってくる感覚で感知した俺はどうにか体勢を整えて速度を上げて、機体を左右に振ることで火球を回避し……そうして声を上げる。


「うおおおおおお!?

 遊撃隊の連中はよくもまぁ旧式でこの火球を避けてたな!?」


 そんな声を上げている間も次々と火球が発射されてきて、それらを必死になって避けていると、通信機の向こうのアリスが大きな笑い声を上げる。


『あははははは!

 すごいすごい! 機関銃より威力ありそう! でも威力ならこっちの方が凄いんだからね!!』


 直後、無反動砲の発射音が後部銃座から響いてきて……無反動砲の凄まじい着弾音が背後から響いてくる。


 俺達の機体につけられた無反動は基本的な作りはクレオのそれと同じだが、給弾方法は全く違ったものとなっている。

 1発1発、手動で装填する必要があり……その作業を手早く整えたアリスは、2発3発と無反動砲を連射していく。


 アリスの足元の木箱に詰め込まれた弾は全部で10発で……アリスはその全てを打ち尽くす勢いでシュコンシュコンと、次々と給弾しては発射し、俺の視界が届かない後方に爆発を起こし続ける。


『そのでかい体で避けようなんて無駄無駄!

 全弾もってけコノヤロー!!』


 ヤバい状況となったせいでおかしくなっているのか、無反動砲の威力の凄まじさにおかしくなっているのか、いつにないテンションで発射を繰り返すアリスに俺は、


「あんまり調子にのって撃ち続けるなよ!?

 連射が過ぎると砲身が熱くなりすぎるって説明があったろうが!!」


 と、声をかける。


 するとアリスは俺の言葉を聞き入れてくれたのか……一旦連射を止めて……そしてすぐに連射を再開させる。


「いや、もうちょっと休めよ!? もっと砲身を冷やせよ!?」


 後方から迫ってくる凄まじい音と熱を回避するので精一杯の俺がそう声を上げると、アリスは尚も笑いながら言葉を返してくる」


『あはははは!

 そんなことよりラゴス! よく後ろを見もしないであれを回避し続けられるよね!!

 ……生き残ってた人たちも皆獣人みたいだったし、獣人特有の勘か何かなのかな!!』


「知るかそんなもん!!

 んなことより他の皆はどうなってる!? 皆無事か!?」


『だいじょーぶだいじょーぶ! 皆無事だし、結構連中にダメージ与えられてるから安心して!

 ほら! クレオさんも無反動砲を撃ち尽くして機銃戦に入ったし……ラゴスも負けてられないよ!』


 と、アリスがそんなことを言ってくると同時に、後方から迫っていた火球の気配が途絶える。

 どうやらクレオが乱戦に入ったおかげでこちらに向けられる火球が減ってくれたようだ。


 それを受けて俺は機首を上げてのロールをして反転し……空中を漂う変異種共を正面に捉えるのだった。

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