第97話 急報
とにもかくにもアンドレアの結婚が決まって……それから俺達は結婚式の準備をしながら日々を過ごすことになった。
ワイバーン退治の仕事をし、訓練をしてはクレオに負け続け、例の新兵器の研究を続けているランドウと連絡を取り、結婚式の余興やら何やらの準備をしての毎日。
これといった事件らしい事件もなく、概ね平凡に時が過ぎていって……あの変な野郎に会うこともなく、誰かがナターレ島にやってくるということもなく……数カ月後。
盛大に、島中のほぼ全員が集まってのアンドレアの結婚式が執り行われた。
島中の食料を食べ尽くし、酒を飲み尽くすのかと思う程に盛大に……誰も彼もが笑顔でその時間を過ごし……アンドレアは美人の奥さんにべったりと寄り添い続けての結婚式が。
……そして翌日。
島はいつもの日常へと戻り……その一方で世間は、新聞を見るにかなり騒がしいことになっているようだ。
『スズキ式無反動砲、軍が正式採用を決定、各口径の量産開始』
『ミスリル製マナエンジン搭載単葉機、ついにロールアウト、まずは100機が軍用に』
『空中軍艦建造計画が本格始動、造船所が公開に』
『神殿改革派が勝利、聖女が神殿トップの座に』
新聞の一面に何枚もの写真が所狭しと並べられ、文字がぎゅうぎゅう詰めに押し込まれている。
どのニュースも重要なもので、どうしてもそれら全てに一面を飾らせたいということなのだろうが……こんなにもぎゅうぎゅう詰めだとなんとも読み辛いったらないなぁ。
と、昼下がりにそんなことを考えながらリビングのソファで新聞を読んでいると、学校から帰ってきたアリスが、ソファの後ろから新聞を覗き込んできて、声をかけてくる。
「スズキ式無反動……? あ、そっか、ランドウさんってランドウ・スズキって名前だったね。
そして私達の飛行機とおんなじようなのが量産開始かー……なんか複雑。
他のニュースは……まぁ、どうでも良いかな」
と、そんなことをいってアリスは持っていたカバンを目の前のテーブルの上に投げ出し……どかんと隣のソファに飛び込んで体を預ける。
「……んー……あの飛行艇が当たり前の技術になったら私達の仕事も減っちゃうのかなぁ」
小さな体をソファの奥へ奥へと押し込みながらそう言ってくるアリスに、俺は新聞をめくりながら言葉を返す。
「まぁ、そうなるだろうな。
ライバルが増えるってのもあるが……ランドウの無反動砲と合わせてモンスターの駆除が一気に進むだろうからな。
それこそ人間が本土を支配した時のように、空を支配する時がやってくるかもしれない。
そうなったらまぁ……賞金稼ぎとしてはお手上げだろうな」
「そっかー……まぁでも、この数カ月間で十分稼いだし、貯金はあるし?
そうなったらなったでどうとでも出来ちゃうか」
「まぁな、俺もアリスもこの屋敷で静かに暮らす分には困らないだろうな。
庭の畑をもっと広くして、ニワトリでも飼って……釣りでもして毎晩のおかずを海から手に入れたらジジイババアになるまで安泰だろうさ」
「ちょっとちょっとーー!
なんで私がラゴスと一緒におばあさんになってるのさー!
そうなる前に絶対結婚してるしー! 結婚相手との愛の巣で暮らしてるしー!
っていうかラゴスだって相手見つけて結婚しちゃいなよー!」
「……まぁ、そんな夢物語も、貯金に余裕があればこそ語れるってもんだな。
贅沢せずに身分相応……真面目に生きていこうじゃないか」
「ちょっと!? ラゴスはともかく私の結婚まで夢物語に巻き込まないでよ!?」
と、アリスがそんな悲鳴を上げる中、俺は新聞を読み終えて丁寧に畳み……畳んだ新聞をテーブルの上へと投げやる。
この数ヶ月間、真面目に仕事を頑張り続けたおかげで通帳の数字は見たことのない桁になった。
その上こんな立派な屋敷があるし、勲章持ちということもあって様々な保険に入る事もできたし、国営年金にも入る事ができた。
悠々自適と言うか順調と言うか……何もかもが問題なく前に向かって進んでいっている。
アンドレアは奥さんと幸せな毎日を過ごしているし、ジーノは今度新しい子供が産まれるそうだし、グレアスのとこの長女も、アンドレア達の結婚式にあてられたのか、彼氏との結婚を考え始めたそうだし……何もかもが、グレアスが憤死しかけていること以外は全てが順調だ。
平和で穏やかで……アリスの生まれのこととか、遺跡のこととか、あの野郎のこととか、スッキリしないというか、心に引っかかる部分が無くはないのだが……それもこの数ヶ月で忘れかけているというか、どうでもよくなっているというか……。
考えても無駄というか、何も起こらないのだから考えても仕方ないというか……。
とにかくこのまま平和に、俺達が老いさらばえるまで平和に時が流れてくれたならそれで良いと、そんなことを思う日々が続いていて……。
と、そんな事を考えていると、玄関の扉が轟音と共に開け放たれそこから誰かの足音がドタバタと響いてくる。
「クレオか」
「クレオさんだね」
すっかり聞き慣れたその足音に、俺とアリスがそんな言葉を吐き出していると、クレオがリビングへと駆け込んできて……一枚の紙を、電報と思われる紙を握りしめながら大きな声を張り上げてくる。
「た、大変です!
ほ、北西諸島の方でワイバーンの変異種が出現して、守備隊と民間の賞金稼ぎが全滅したそうです!
更に南東諸島でもワイバーンの変異種が出現し……こちらは軍空港が近かったのもあって全滅まではいかなかったようですが、かなりの被害が出たとのこと……!
そしてその変異種なのですが、自分達が遭ったのとは全く別物というか、より凶悪にしたような化け物だったそうで……それで、その、他国でも同様の事件が起きているようだとの報告が……!」
そんなクレオの報告を受けて、俺は大きなため息を吐き出す。
平穏が一瞬で崩れ去ったというかなんというか……全く、なんだってまた急にそんなことになってしまうんだか……。
「……詳細は分かるのか?
ワイバーンの変異種がどんな奴だったのか、守備隊の数とかがどれくらいだったのか……全滅した後の変異種は処分されたのか放置されてるのか、外国ではどうなってるのか……とか」
ため息を吐き出しながら俺がそう返すと、クレオは首をぶんぶんと横に振ってから言葉を返してくる。
「いえ、あくまで電報での第一報なので、詳細までは不明です。
追々届けられるでしょうが……いつ届くかは不明です」
「……ケスタ島とかナターレ島とかここら辺は南西諸島ってことになるんだったか?
南西諸島ではそういった事件は起きてるのか?」
「いえ、一応確認しましたが南西諸島は至って問題ないと言いますか……ワイバーンがいなさすぎて賞金稼ぎ達が食うに困って拠点を他所に変えてる程ですから、全く問題ない感じです。
……恐らくですが、以前自分達が出会った変異種が他所で現れた変異種の同種と言いますか……似たような存在だったのでしょう。
何故ここら辺だけ早めに出現したのかは謎ですが……ランドウさんが以前言っていた魔物が追い詰められると、数が減ると変異するというのが本当なら、ここら辺だけ他よりも早く数が減って、他よりも早く出現した……とかですかね?
早かった理由は……ラゴスさん達の活躍や、陛下を追いかけていた自分達……護衛隊の皆さんが道中で暴れたのが影響しているのかもしれません」
そんなクレオの言葉を受けて俺は再度の大きなため息を吐き出し……アリスもまた同様のため息を吐き出す。
詳細が分からないことにはなんとも言えないが……なんとも面倒な話になりそうで、厄介なことになりそうで……願うことなら軍の方で全てを綺麗に解決してくれないかなと、そんなことを心底から願うのだった。
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