第93話 署長室にて
遺跡で謎の人物と出会い、その姿を見失った俺は、荒れた息を整えながら警察署へと向かい、グレアスに遺跡で起きたことを……俺がこの目で見たことを報告することにした。
署長室にていつものように話を聞いてくれたグレアスは、驚く訳でもなく、俺に質問を投げかける訳でもなく、ただ静かに頷いて……、
「なるほどな……」
と、そんな言葉を呟く。
それに対し俺が、何が「なるほど」なんだと問いかけようとするとグレアスは、片手を上げて言いたいことは分かっているとばかりに俺を制して、そうしてから言葉を続ける。
「お前が届けてくれた落とし物や、その後に見つかったいくつかの落とし物な……いくつか妙な品というか、一体それが何なのかどうやって作ったのかも分からない品があったんだよ。
一体誰がそんなものを遺跡に持ち込んだのやらと、署員を総動員して島民全てに、誰が落としたものなのか、これらが何なのか知っているかとの確認をしてみたんだが……どうやら誰もその答えを知らないらしい。
……島の住民でないなら一体全体誰だって話になるんだが、以前遺跡を調査した調査隊や、陛下でもないようだし護衛の連中でもない、勿論クレオでもないし……ルチアでもない。
ここ最近は観光客もやってきていないし……時系列的にアリスでもないだろう。
……つまりだ、お前が見たというその変な野郎がそれらの落とし物の落とし主なんじゃないかと思ってな……。
怪しい人物であれば怪しい品を落としもするだろうと、そう考えてのなるほどな、だったんだよ」
あるいはあの時見た人影は、俺の妄想というか、幻ではないかと頭の何処かで思い始めていた俺は、そんなグレアスの言葉になんとも言えない感情を抱く。
同調して良いのやら悪いのやら……もし仮にアレが幻とかでなく、本当にあそこに存在していた人間であるとしたら……。
「ま、そいつの言葉全てを真に受ける訳にはいかないが……アリスの関係者であることは間違いないだろうな。
アリスも何処の誰なのか、どうやってこの島に来たのかが分かっていない訳だし……何か……俺達が見逃しているというか、気付いていない何かがあるんだろうな。
そしてそいつの言葉を真に受けるなら……あの飛行艇は何処かで作られた量産機で、そこでは既に無反動砲が作られていて、そして魔物共がとんでもない変異をしているってことになる……のか?」
執務机で椅子を軋ませながらそう言うグレアスに、ソファに深く座った俺は、天井を仰ぎながら言葉を返す。
「どーだろうなぁ。
俺も動揺していたっていうか混乱していたっていうか、あいつの言葉全てを完璧に暗記している訳じゃぁないし……今になってみると、本当にそう言っていたのか、それとも別の言葉を聞き間違えただけなのか、なんとも言えねぇんだよな。
……仮に何処かの国があんな飛行艇の量産に成功していて、変異した魔物が群れるなんて事態になっていたとして……なんでそれをこんな田舎に持ってくるんだ? なんで王都じゃないんだ? なんでそのことを俺なんかに知らせるんだ?
全く訳が分からねぇよ。
……そう言えばアイツ……他の連中がどうとかも言っていたな。
……もしかして俺以外にもアイツに接触したやつがいるのか? 量産機ってことはあの飛行艇が他の何処かにも……?」
そんな俺の言葉に「ふぅむ」と唸ったグレアスは……ペンを握り、紙を手に取り、ガリガリと何かを書き始める。
「……既に他の連中に接触しているが、他の連中がイタズラか何かだろうと思って本気にせず、報告されず、その事実が埋もれてしまってるってのはあるかもしれないな。
……陛下には俺の方から報告しておこう、それと警察の本部長にも報告をしておく。
あの飛行艇が悪党の手に渡ったとなれば事だからな、どの程度の規模かは分からないが調査自体はしっかりとしてくれることだろう。
……ラゴス以外の誰かもそいつに接触してたとなれば、その情報から何か分かることがあるかもしれん。
とりあえずは報告だけしておいて、後は調査結果を待つという形になるかな……。
……で、この話、アリスにはするつもりなのか?」
ペンを走らせながらそう言ってくるグレアスに、俺は頷き、言葉を返す。
「ああ、勿論。
アリスに嘘は言わないし、隠し事をするつもりはない。
アリスの出自に関わることかもしれないしな……しっかり話して、アリスにも何か覚えが無いかの確認をして……。
それと、あの野郎がアリスに何かしようとしてきた時の為に備えというか覚悟というか……アリスなりの準備をさせてやる必要があるだろう。
……グレアス、場合によっては拳銃の携帯許可を取るかもしれないから、よろしくな」
「……フレアガン程度でぎゃーぎゃー言ってた男のセリフとは思えんな。
……ま、既に機銃をぶっ放して、何機もの飛行艇を落としてる女だからな、アリスは。
拳銃を持たせても問題はないだろうし、賞金稼ぎとしての必要装備ってことで許可をやることも可能だろう。
拳銃については俺様が選んでおいてやるよ、我が家の女連中に携帯させてる、小口径の良い銃があるんだ。
殺傷力には難があるが、護身用ならアレで十分、反動も少ないし……殺傷力に難があるからこそ躊躇なく撃てるだろうよ」
その言葉を受けて俺は、ぎょっとしながらグレアスのことを見やる。
女連中? 奥さんは確定だとして、もしかして娘達にも持たせているのか? まさかルチアにも?
そんな疑問を抱きながらの俺の視線に対してグレアスは、にやりと笑って頷き……言葉を続けてくる。
「当然だろう。
女ってのは強くなくっちゃぁいけないからな……。
それに良いもんだぞ、銃を携えて自衛できる女ってのは、それだけでうんと魅力が増すからな。
我が家じゃぁ大人になった娘達に銃を渡すのがちょっとした恒例セレモニーになってるぞ」
グレアスがそう言ってがははと笑い……その笑いに対して呆れの視線を返した俺は、それでも撃った撃たれた誤射云々の話が聞こえてこないのだから、凄いというかなんというか……しっかりと良い旦那、良いお父さんをしてるんだなと……ほんの僅かだけだがグレアスのことを見直すのだった。
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