第91話 試射


 飛行艇の準備を終えて、一足先にクレオが飛び立つのを見守った俺達は、その後を追う形で水上を走って飛び立ち……クレオの一段上、上空を旋回しながら見守る体勢を取る。


 そうやって俺が何かがあってもいつでも動けるようにと構える中、ランドウからの依頼を受けたアリスは双眼鏡を構えて、上空から見て試作品がどうだったか、どのくらいの反動を起こしていたか、どう動いていたか、それによって飛行艇にどんな影響が出たかの記録を取るために構える。


 空の上から俺達が、地上からライドウ達が見守る中クレオは、ターゲットマークの描かれた鉄塊を積んだ無人のボロ船の周囲をぐるりと旋回してから……片手で操縦桿を握り、片手で試作品を握るという、かなり無理のある体勢を取る。


「……まさかその体勢でやるのか」


 その姿を見て俺がそう呟いた瞬間、クレオはその体制のままプロペラを停止させて……試作品の発砲音が周囲に響き渡る。


 初弾はターゲットに命中せず、海面を貫き……その衝撃を受けて海面が大きく揺れてボロ船が転覆しそうになる。


「……40mmとかいうとんでもない口径からある程度察していたが、恐ろしい威力だな……」


 その発砲音と吹き上がる水しぶきは機関銃のそれとは比較にならないもので……普通であればとんでもない反動が飛行艇とクレオを襲うはずだが、クレオもプロペラを再始動させた飛行艇も問題なく空を飛び続けていて……大した反動は受けていないようだ。


「着弾点ばかり見ていて見逃したが、どうだった?

 反動はあったか?」


 通信機の向こうにいるアリスにそう話しかけると、すぐにアリスが言葉を返してくる。


『あったといえばあったかな。

 ただほとんど分からないレベルっていうか……あの感じだと試作品の反動だったのか、それともクレオさんが姿勢を崩しちゃっただけなのか、判断がつかないレベルだね』


「……なるほど、思っていた以上に反動が無いんだな。

 しっかりと機体に固定して、エンジンと連動させたなら……もしかしたらもしかするのか」


 と、俺達がそんな会話をしている間にクレオは、試作品に弾やら何やら必要なものを込めていって、次弾の発射準備を整える。


「装填は論外だが……まぁ、それも装填機構が出来上がれば問題無い、のか。

 あー……いっそのこと複座にして、俺とアリスみたいに、パイロットとガンナーを分けて運用すべきなのかもな」


『んー……単発となると、パイロットと余程の意思疎通っていうか、連携取れないと難しいんじゃないかな。

 ラゴスと私みたいに通信機で合図しながらの連射銃でもかなり難しいんだし……』


「その上相手も動くとなると……やはり直感的な反応を取れるパイロットが自分で撃った方が良い訳、か。

 ……っと、装填が終わったみたいだな」


 その直後に、クレオが慣れた手付きで2発目をぶっぱなす。


 放たれた弾丸は、見事なまでにターゲットマークに直撃し……凄まじい音を立てながら鉄塊がゆらぎ、そのせいで姿勢を崩したボロ船が転覆してしまう。


「あー……そうだよな、そりゃそうなるよな。

 ランドウは着弾痕も良いデータになるとかなんとか言ってたが……もしかして海から引き揚げるつもりなのか……?」


『さー……どうだろうねぇ』


「次は無人島に設置したターゲットか。

 ……まぁ、あっちのなら海に沈んだりはしないんだろうし、あっちのがあればいい訳か」


 ならどうして船に乗せたんだという話があるが……まぁ、ランドウにしか分からない意味があるのかもしれない。

 あるいはただその光景を眺めたかっただけなのか……。

 鉄塊ってもそれなりの値段がするはずなんだがなぁ……。

 島に置いてある鉄塊、石材、木材も運搬費を考えればかなりの値段に……。


 と、俺がそんなことを考えて頭の中で数字を踊らせていると、装填を終えたらしいクレオが、無人島の砂浜に置かれたターゲットマークに向けて弾丸を叩きつけていく。


 木材は跡形もなく粉々、その衝撃もあって周囲一体に破片が飛び散るという結果。


 石材は凄まじい音と共に大きく揺らいだ。砕けたのか貫通したのかは上空からでは確認出来ないが……かなりの大きさの、上空からもはっきりと視認できる大きさの石材を揺るがしたのだからそれなりの結果となっていそうだ。


 そして鉄塊は……ターゲットマークに大きな痕をつけながら弾丸を弾いた。

 直撃音と跳弾の音が周囲一体に響き渡り……無人島で試しておいてよかったと、心底から安堵する結果となった。


「……口径的な威力としては十分なんだろうが、流石に鉄塊相手じゃぁ貫通力が足りないな。

 間に合わせで作った弾ならそんなものなんだろうが……弾丸を改良して貫通力を出せたならとんでもないことになりそうだ。

 ……だが、そんな状態でも、試作段階のあれであっても直撃したならドラゴンでもイチコロだろうな」


 上空から無人島と、無人島の周囲を飛び回るクレオのことを眺めながら俺がそう言うと……通信機の向こうから、アリスの焦り気味の声が響いてくる。


『ら、ラゴス。

 試作品の様子が変! 熱を持っちゃってるのか何なのか、変色しちゃってる!

 ……もしかして砲身に火薬か何かが残っちゃってるのかも!?』


 双眼鏡を覗いているらしいアリスのその言葉を受けて俺は、自らの目でクレオの様子を確認するよりも早くアリスへの指示を飛ばす。


「アリス! クレオに光信号で不時着するように伝えろ!

 普通の銃も連射しすぎれば熱をもっちまってえらいことになることがあるが、あの大きさの砲身でそんなことになったらとんでもないことに―――」


 と、俺がそう声を上げる中……軍人のクレオは、俺なんかの指示を受けるまでもなく自らの判断で無人島側への不時着を選び……多少荒っぽく、水しぶきを上げながらの着水を試みる。


 上がった水しぶきが銃身に当たり、ここからでも見て取れる程の蒸気を吹き上げ……俺達もそれを追う形で高度を下げての着水を試みる。


 俺達がそうしている間にクレオは、飛行艇を無人島の砂浜へと打ち上げて……操縦席から脱出し、砂浜の上へと寝転がる。


 そこに飛行艇を着水させて無人島の側に停泊させた俺達が慌てて駆け寄るとクレオは……、


「あーーっはっはっは!

 何あの威力、さいっこう!!」


 と、今まで見たこともないような輝きを放つ笑顔でもって、そんな大声を上げるのだった。

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