第90話 試作品完成?


 工場長とランドウが中心となって始まった新兵器開発。

 ……俺達は総出でその作業を手伝うことになった。


 あくまで受けた仕事は新兵器のテストであって、なんで手伝わなければいけないのだろうかという思いはあったが……その新兵器が完成しないことにはテストも何もなく、また結構な金を貰う以上はそれなりの義務を果たす必要があり……これもまた仕事のうちだと思うしかないだろう。

 

 ただしあくまで俺達がするのは手伝いまでで……開発そのものには深入りしないことにした。


 意見を求められたなら意見もするし、試射だとかにも協力するが、それ以上は手を出さない。

 

 元整備員としてある程度の知識はあるものの、あくまで俺は素人だからな、変に手を出さない方が良いはずだ。


「反動をなくしたいの? 反動……反動かぁ」

「衝撃がこう出るから反動が起こるなら……逆方向に何かを発射したら反動を相殺したりしないの?」

「え? 出来るかもしれないけど連射性に問題が起きる? そのくらいは仕方ないでしょ」


 と、アリスはそんな感じで口を出したりしているが、まぁそれも結局は素人意見だ、採用されないに違いない。


 

 とにもかくにもそうして俺達は資材の搬入だの何だのを手伝っていって……一日が過ぎ二日が過ぎ、何度か試作品が作られ、地上での試射が行われ、三日、四日……。


 当初の予定では拘束時間は二日から三日だという話であり……その三日が過ぎてしまって、四日が過ぎてしまって……更に五日、六日が過ぎて、一週間経ってようやくクレオの飛行艇に、まともに発射出来る状態となった、試作品40mm砲が装着されたのだった。


 かなり細長い、歩兵用のライフルをいかつくしたような見た目で、設置位置はまさかの飛行艇の上部、操縦席の前であり、飛行艇の先端。

 操縦席に座ったパイロットが手を伸ばしてトリガーを握り、狙いをつけて発射、リロードさえも手動というとんでもない仕様。


 照準用兼副武装として、6mm軽機関銃がその上に乗っけられていて……そのスコープを覗いて狙いをつけて発射するというものであるらしい。


 更にアリスが思いつきで口にした反動軽減機構も搭載されていて……パイロットが肩に背負う形で後方に伸びるノズルから、反動軽減用の発射薬が吐き出されるらしい。


「……こんなもん、まともに使えないだろ」


 一週間経っての早朝、整備工場でそれを……ランドウ達が徹夜で装着作業をしたらしいそれを見た俺の第一声はそんな内容だった。


 アリスとクレオは目を煌めかせ、アンドレアとジーノは俺と同意見なのか顔をひきつらせ……そんな俺達のことを見やったランドウが声をかけてくる。


「良いんですよ、試作品なんですからまともに使えなくても。

 飛行艇前方上部につけることになったのも、苦し紛れと言いますか、他の仕組みが間に合わなかったからでして、間に合わない部分を人間にやってもらおうと考えてこの形になったってだけのことです。

 ……まぁ、発射された弾がプロペラに当たる可能性があるっていうのが最後まで除去出来なかったんで、空での試射の際は相当に気をつける必要があるんですけどね。

 それもエンジンを止めるなり、銃口の角度に気をつける方向でなんとかなるでしょう。

 この試作品が上手くいったならエンジン連動機構を搭載するか、設置場所を工夫する予定ですし、照準や装填についてもそれなりの工夫をするつもりです。

 いっそのこと、この銃を搭載するための飛行艇を設計するのもありかもしれませんね。

 それ程にこの銃の威力と反動は画期的かつ強力です。

 特にアリスさんのアイデアである反動軽減が良い仕事をしてくれていますね。

 極々単純な作用反作用の法則を利用しての機構。確かに学校でそこら辺を習っていれば思いつけるのでしょうが、いや、うん、素直に脱帽です。

 むしろなんでこれを思いつけなかった自分と、そう過去の自分を責めたくなるような―――」


 と、ランドウがいつものように長々と語る中、俺はアリスによく思いついたなと、そんな視線を向ける。


 するとアリスは、不思議そうな顔をし、腕を組んで首を傾げて「うーん?」と唸り、そうしてから俺にだけ聞こえるように……俺のウサギの耳だけが聞き取れるような小さな声を上げる。


(……うーん、思いついたっていうかなんていうか、そうするのが当たり前って思っちゃったっていうか……。

 むしろなんで私が言うまで誰も作ってなかったんだろうって思うっていうか……。

 そこら辺に当たり前にある技術のつもりで口にしたんだけどね……なんだろうね)


 その言葉はアリスにしては珍しい、不明瞭というか歯切れの悪いもので……俺は更に首を傾げるアリスと同時に首を傾げる。


 そうして二人で少しの間悩んでから……まぁ、悩んでも仕方ないことだろうと悩むことを諦めて……アリスもそういう結論に至ったのだろう、二人同時に傾げていた首を起こす。


 と、そのタイミングでランドウの話が終わりに近づき……締めの言葉が放たれる。


「―――という訳でクレオさん、早速のテスト、空中での試射をお願いします!!

 的は水上の無人船に用意したターゲットマークを描いた鉄塊、少し離れた無人島に同じくターゲットマークを描いた鉄塊と石材、木材がありますので、それを狙ってください。

 空中に的を用意できなかったのは残念ですが、他の飛行艇を撃つ訳にもいきませんので、今回は対地、対水上で我慢するとします」


 それを受けてクレオが早速とばかりに飛行帽を被った上で飛行艇に乗り込み……俺とアリスも自分の飛行艇へと乗り込む。

 

 クレオは試射役で、俺達はその後方を飛びながらの、いざという時のトラブル対処役……つまりはまぁ、飛行艇が落ちた時の為のクレオの救助役だ。


 アンドレアとジーノもいつでも発進できるようにと準備だけしはしているが、燃料他が勿体ないので、整備工場での待機となる。


 ……まぁ、あのとんでもない口径の銃が破裂したりしない限りは、飛行艇が落ちることなんてないだろうと、そんなことを考えながら俺は、いつも通りの発進準備を済ませていくのだった。

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