第89話 工場長


「しょうがないじゃないですか、ドラゴンを倒そうと思ったらどうしたって連射よりも一撃って話になっちゃうんですから。

 ファルコ氏達は連射でガルグイユをどうにか倒したそうですが……それさえも強力な一撃さえあれば必要なかったはずです。

 一撃で砕くか、一撃で貫くか、ドラゴンに致命傷を与える威力となったら当然そういう武器になりますし……反動なんて飛行艇乗りの腕でどうにかしたら良い話でしょう。

 ……何だったら反動を受けても大丈夫な飛行艇だってそのうち開発してあげますよ。

 でもまずは、そのためにもまずは武器の完成が必要なんです、高火力の飛行艇銃の開発がどうしても必要なんです」


 いつの間にか側までやってきていたランドウがそんな無茶苦茶なことを言ってきて……丁寧にじっくりと銃の部品を見ている工場長が言葉を返す。


「……ま、気持ちはわからんでもねぇが、これじゃぁダメだな。

 威力を出すにはどちらも中途半端だ。

 回転式の方は威力に寄りすぎていて、こっちのは機関銃の常識……規格に寄りすぎている。

 折角飛行艇の外部にあんなデカイ砲をぶら下げようって発想を出来たのに、なんだってこっちの機関銃は、飛行艇の中におさまるような、通常規格のサイズにしちまったんだ?

 回転式じゃなくてこっちの単発式で……口径に合わせて銃そのものを大きくして、射程と貫通力を強化したなら……まぁいけるかもしれねぇな。

 ……飛行艇の腹にはつけられねぇだろうから……そうだな、翼にでもつけたら良いんじゃねぇか」


「翼……? ああ、そうか翼って手がありましたね……。

 通常の機関銃が二門、翼に二門……翼だとリロードや弾詰まりの対処がしづらいけど、威力が高い分、弾数は少なくても構わないですよね……」

 

「構わねぇだろうが、それでも出来るだけ詰め込む努力はしろよ。

 そして……更にサイズアップした機関銃を余計に二門搭載するとなったら、今の飛行艇じゃぁ無理だな。

 いくらなんでも重すぎる。

 ラゴス達の飛行艇ならいけるかもしれないが……既に重っ苦しい銃座を追加しちまってるからな、アリスの体重も考慮するとちょっと厳しいな。

 銃座を取り除けば……まぁ搭載できるかもしれねぇが、どうだ? ラゴス?」


 と、工場長に話を振られた俺は「うぅむ」と唸ってから言葉を返す。


「……確かに威力の高い銃があればガルグイユを相手するのも楽だったろうが……無いな。

 単発ってことは狙いを定めた上で撃たなければならないんだろう?

 それはつまり飛行艇で狙撃手をやれって話になる訳で……そのために動きが鈍ったり、旋回が出来なくなったりするってのは論外だ。

 いちいち狙いをつけてたんじゃぁ被弾する可能性が上がるだろうし……地上の魔物相手ならまだしも、空を自由に飛び回るドラゴン相手に命中させられるって自信が持てない。

 連射ってのはそこら辺が楽だから……多少雑にやっても当てられるもんだから良いんだよ、飛行艇の武器足り得るんだよ。

 ……銃弾が飛び交う戦場の中で、狙撃手に狙いを定めながら走れ、攻撃を避けろ、そして命中させろなんてのは無理な話だろう?

 そんなのを搭載するくらいならアリスの銃座の方がよっぽど頼りになるだろうな」


 元整備員として、そして飛行艇乗りとして真剣に考えた上で、俺がそう言葉を返すと……アリスとアンドレアとジーノがうんうんと頷いてくれる。


「……ま、そうなるよな。

 よほどに腕がよくて、被弾上等って度胸があって……それと勘が良い飛行艇乗りがいねぇと話にならねぇだろうな。

 手足が吹っ飛んでもかまわねぇからドラゴンに一発くれてやるっつう、そういう根性があれば扱えるだろがな……。

 ……ま、仮にそんな奴がどこかにいたとしても需要はねぇだろうし、企業の商品としちゃ三流だな。

 会社の方も量産を許さないだろう」


 解体した部品を机の上に並べて……ツナギのポケットに押し込んでいたよれよれのメモ帳を取り出して、何かを書き取りながらそんな言葉を吐き出す工場長。


 それを受けてランドウは……「ぐぬぅ」とそんな声を上げながら歯噛みし、ぐっと拳を握り、ふるふると震える。


「だがまぁ……発想は悪くない。

 これからラゴス達の飛行艇を参考にした新型が出回るって話だからな、出番自体はあるだろうよ。

 ラゴス達だって、ガルグイユの鱗がもう少し硬かったらどうにもならなかったんだしな。

 そうなった時に、もし貫通力の高い銃があったなら……たとえ命中率が悪くてもそういう銃があったなら飛びついていたに違いねぇ。

 ……そしてどうやらここにはクレオっていう肝の座った飛行艇乗りがいるようだしな、とりあえずクレオの飛行艇に積めるもんを手早く拵えて……通常の二門を外した上で搭載してみる方向で話を進めよう。

 それならば多少重くとも飛ぶには問題ねぇはずだ。

 ……クレオ、いけるだろ?」


 メモ帳に何かを書きながら……絵図と計算式をあれこれとかき込みながらそう言ってくる工場長に、クレオが……俺の意見には賛同せずに、その目を煌めかせながら、両手をぐっと握って上下に振りながら、わくわくと弾む感情を全身で表現しているクレオが、


「はい!!」


 と、元気な声を返す。


 ……まさか工場長はここで新型の機関銃をこしらえるつもりなのか?


 今書いているそれは設計図なのか? 鋳物やら何やら手間も金もとんでもなくかかっちまうぞ、とそんなことを俺が考える中……工場で働いている全員が、俺の元同僚達全員が、クレオのように目を煌めかせながら、工場内を走り回り、そのために必要な準備を、道具を、資材を揃え始める。


 中には鋳物工の所にすぐに行けるようにと、トラックを用意している馬鹿までいて……そんな光景を見た俺は、こんな職場で働いていたのかと驚き……同時に少し呆れてしまい、やれやれとため息を吐き出すのだった。

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