第88話 新兵器


「ま、雑談はここまでにして、整備工場の方に行きましょうか」

 

 散々好き勝手に喋った挙げ句にそんなことを言ってくるルルカ社のランドウ。


 そして俺達の返事を待たないまま歩き出してしまい……俺達は慌ててその後を追いかける。


「お、おいおい、なんで整備工場なんだ?

 ……まさか新兵器とやらは工場に運んだのか?」


 追いかけながら俺がそう問いかけると、ランドウはすたすたと足を進めながら言葉を返してくる。


「はい。そうです。

 だってテストなんですから、さっさと飛行艇に装着して、さっさと試す以外にないじゃないですか?

 だからこっちの方で既に装着の手配もしてありますし、工場に到着したならすぐにテスト出来るようになってるはずです」


 その言葉を聞いて何を勝手なことをしてくれるんだと歯噛みした俺は、文句を言ってやろうとする……が、そうするよりも早くランドウが整備工場の敷地に到着してしまい、鉄くずやらドラム缶やらがそこら中に投げ出してある一帯をスタスタと、慣れた様子で突き進み……工場のドアを勝手に開き、中へと入っていく。


「……うん、ラゴス、とりあえず私達も中に入ろ。

 文句は後でも言えるし」


 そう言って俺の背中をそっと押してくるアリス。

 それを受けて俺が振り返ると、アリスもクレオも、アンドレアもジーノまでが苦い顔をしていて……そうして全員同時に『はぁ』とため息を吐き出した俺達は、整備工場のドアを開き、中へと足を進める。


 すると、防音壁が工場内へと留めていたらしい金切り声がきゃんきゃんと、俺達の耳へと飛び込んでくる。


 声の主はランドウで……どうやら工場長達にそうやって食ってかかっているようだ。


「なんで!? なんで装着が終わってないのよ!?

 終わってなかったらテストできないでしょう!?」


「黙れ小娘! これはラゴス達の飛行艇だ!

 依頼主だろうが何だろうが、他人の指示で勝手に飛行艇を改造なんて出来る訳ねぇだろうが!!

 まずはラゴス達に確認をとってその上で作業を進めるってのが道理だ!

 必要な道具は揃えてある! 人員も揃えてある! 多少の時間がかかるくらいは我慢しろい!!」


「ふざけんな!!

 時間っていうのはとっても貴重で、そんなことのために浪費しても良いものじゃぁ―――」


「―――ならてめぇで勝手にやりゃぁ良いだろうが!

 そもそも時間云々というのなら、事前にラゴス達に話を通しておいて許可を貰った上で、こっちにも話を進めておけばいいだろうが! 

 その当たり前の手続きをしないで何が浪費だ、この馬鹿野郎が!!」


 肩を怒らせながらガンガンと工場の床を蹴り、金切り声を上げるランドウと、ランドウの声に被せる形で怒声を響かせる工場長。


 そして工場長の放った言葉が有効打となったのか、ランドウがぐっと押し黙る。


「……あー……親方、すまなかったな、面倒をかけて。

 とりあえず搬入されている新兵器とやらを見ていいか? 見て問題なさそうだったら装着を頼むからさ」


 押し黙った所へと足を進めて俺がそう声をかけると……ランドウはふてくされたのか何も言わず、工場長が「おう」と返してくる。


 そうして海に面しているスロープ式の搬入口の方へと向かって……そこにおいてあった大きな防水シートに包まれた何かの側へと足を向ける。


「……随分とでけぇな」


 それを見るなり俺は、そんな言葉をつぶやく。

 アリス達も俺の言葉に同意だったようでうんうんと頷いたり、「確かに」なんて言葉をつぶやいたりする。


 それから俺は振り返り……後方で、俺達の飛行艇の側でふてくされているランドウを見やってから……防水シートに手をかけて一気にめくる。


 そこにあったのはギリギリ、飛行艇の腹に吊り下げられないこともないような、それ程に大きな筒だった。


 回転式機関銃によく似た造りの、回転式連装大砲とでも言うべきか……それこそ軍艦か、何処かの基地の屋根にでも設置したくなる馬鹿げた代物で……その隣に、ルルカ社のロゴが入った木箱が十数個積み重ねられている。


「馬鹿じゃねぇの」

「馬鹿なんじゃないの」


 俺とアリスが同時に言葉を吐き出す。


「馬鹿ですね」


「わーお、何処の馬鹿がこんなの作った」


「……馬鹿大砲と名付けたくなりますね」


 クレオとアンドレアとジーノがそう続く。


「いや、オレぁこういうの嫌いじゃねぇぜ」


 親方がそう言って……何人かの整備員達が「確かに」「ロマンがあるな」とそんな言葉で続く。


「そもそも飛行艇に積めるような大きさじゃないし、仮に積めたとして撃った瞬間反動で飛行艇が吹っ飛ぶし……そもそもなんで回転させようと思った?

 回転機構の動きだけでも飛行に相当な悪影響があるんじゃねぇか?

 っていうか動力源はなんだこれ、まさかこれにも燃料を使うのか?

 ってことは別途で燃料タンクも積むのか? 嘘だろ……?」


 その砲の側へと近づいて、そっと手を触れて……その構造と設計意図を理解しながらそう呟いた俺は、タンクでもあるのかと側に置かれた木箱の蓋に手をかける。


 すると工場長が腰に下げていた工具袋から適当な工具を取り出し、俺に手渡してくれて……俺はそれでもって蓋を閉じていた釘を引き抜き、蓋をそっと開ける。

 

 くしゃくしゃに丸められた紙を緩衝材とし、箱の中に詰め込まれていたそれは至って真っ当な、俺がよく知る飛行艇の機関銃の形をしていて……俺はホッと息を吐き出してから、それに触れる。


「なんだ、まともな機関銃もあるんじゃないか。

 ……しかしあれだな、造りが何かおかしいっていうか……なんだ、この妙な違和感」


 そう言いながら俺が緩衝材からそれを取り出していると……機関銃の前側、銃口側へと回り込んで様子を見守っていたアリスが「うわっ」と声を上げる。

 

 その一声で俺は、違和感の正体に気づき、緩衝材に半分程埋もれたそれをじぃっと見つめてから工場長の方へと視線を移す。


「……なるほど、口径がでけぇのか。

 そりゃぁ確かに口径を大きくすりゃぁ威力が上がるがよ、それだけで新兵器ってのはどうなんだろうな。

 ……そもそもそっちの砲と言い、これと言い……反動のことを一切考えてねぇのは何なんだ」


 工場長はそう言って機関銃を取り出し……作業用のメガネをかけて、縦に構え横に構え、猟銃でも構えるかのように構えてみて、そうしてから整備員が持ってきた机にそれを置いて、工具を構えてバラしはじめて……スケールで部品一つ一つの大きさを測り、ルーペで部品同士の噛み合わせをじぃっと見やり、些細な問題も見逃さないぞといった様子で、慎重に丁寧に精察していく。


「……金をかけて作ったんだろうな。

 造り自体は悪くねぇ、しっかりと部品が噛み合ってるし歪みもねぇし……そして反動を軽減しようってな努力も感じられる。

 ……だがまぁ、感じられるってだけで、これじゃぁ足りねぇだろうな。

 なんで今8mm機関銃が主流かって、それ以上は今の技術じゃ扱えねぇからであってだな……これの設計者は安定感と安全性こそが武器に求められているものってのを理解してねぇようだな。

 そもそもこれ何連射までいけるんだ? ……まさかこれ、単発銃じゃぁねぇだろうな」


 新兵器を観察しながらの工場長のそんな言葉を受けて俺達は異口同音に、


『マジかぁ』


 と、そんな言葉を漏らしてしまうのだった。

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