第87話 新兵器開発


 新兵器のテストに協力して貰いたい。

 報酬はラゴス・ファルコとその一党、一人につき100万で500万リブラ。

 諸経費はこちらで持つ。

 拘束時間は二日から三日。



 ルチアが拾ってくれた依頼書に書かれていた内容はそんな感じのものだった。


 現在の主力兵器である機関銃はワイバーンを相手にするには十分な火力を有しているが、ドラゴンを相手にするには心許なく、ドラゴンをも圧倒できる威力の新兵器の開発に関しては国は勿論のこと、企業や個人が凄まじい熱量でもって挑み続けている、一攫千金のチャンスの塊のようなものとなっている。


 もし仮に開発に成功して、特許を得られたなら……どれだけの名誉と金が手に入るのか。


 俺達のガルグイユ狩りなんか比べ物にもならない、歴史に残る大偉業であり……それだけに、多くの人間が群がっての玉石混交、詐欺やらが当たり前に横行している、そういう世界でもある。


 そういう訳で普段ならそれ系統の仕事は受けることはないのだが……今回の仕事は大企業も大企業、食品生産から映画の配給までやっているルルカグループからのもので……まさかあのルルカが、勲章持ちの俺達を騙して企業イメージを悪くするようなことはしないだろうと、そういう考えでもって俺達はその仕事を受けることにしたのだった。


 そうしてルルカに連絡を取って、本土に行けば良いのかと確認を取ると、こちらから出向くから島で待っていれば良いとの返事があり……それから三日後、ルルカグループ辺境支社、開発研究部、部長代理という、なんとも胡乱な役職をもった女が島へとやってきたのだった。


 ぼさぼさで真っ黒な長い髪、太い眉に黒縁メガネ。

 化粧っ気のない日焼け肌に……機械油で汚れきった元白衣。


 恐らく20代と思われるその女は……港にて俺達が出迎え、挨拶をするとまるで言葉が通じていないかのように、返事をせず、ぼーっとし続けて……そうしてから俺の顔を見てハッとなり、慌てた様子で言葉を返してくる。


「……あ! アナタがファルコ氏ですか。

 いや、すいません、なんで野うさぎが服着て突っ立ってるんだと、頭が混乱しちゃって。

 いえ、写真では見てたんですよ、見てたんですけど、所詮は白黒じゃないですか、なんだか現実感がなかったっていうかなんていうか、いえ、ほんとすいません。

 私の名前はランドウ・スズキって言います、よくかわいい名前だねって言われます。

 あ、一応私が今回のプロジェクトの責任者なので、相応の敬意を払ってくださいね。

 女だからって舐められるのは慣れてますが、慣れてるからって気持ちの良いものじゃぁないんですよ。

 え? あ? なんです? その顔?

 ああ、さっさとお仕事の話をしろってことですか? はいはい、せっかちなんですね、ウサギだからですかね。

 今回の話はまぁ、ほら、魔導なんてものがでてきちゃったじゃないですか、困るんですよね、ああいうの。

 あんなのが主流になったら私の大好きな機関銃の出番がなくなっちゃうっていうか、魔導とかマナストーンもまぁ、それはそれでロマンなんですけど、なんていうか華が無いですよね、華が。

 だからまぁ、魔導がでてくる前に開発を急いで、それなりの結果を出して研究資金を稼いでおこうって腹でして。

 20年分くらいあったら、魔導なんてものが出てきても、なんとか追い返せると思うんですよね、私の機関銃が。

 機関銃でドラゴンが倒せさえすれば、空中軍艦なんて要らないわけですし、あんなのただでかいだけの、鈍重な鉄の塊な訳ですし、飛行艇乗りとしても飛行艇需要がそのままのほうが嬉しいでしょう?

 嬉しいですよね? なら私に協力してくださいね」


 まさかの一息。

 呼吸すること無く、舌を噛むこと無く、それだけの量の言葉を吐き出したランドウに俺達が唖然としていると、ランドウはだらだらっとした足取りでこちらにやってきて、ここに来るまでの道中でも機械いじりをしていたのか、油まみれの手で俺達の手を取り、握手してくる。


 俺の毛が汚れ、アリスの手が汚れ、クレオはさっと、腰ポケットに入れておいた革手袋を装着して、手が汚れるのを回避し、アンドレアとジーノもそれに続く。


「あー……とにかく、なんだ、仕事はきっちりやるさ、よろしく頼む」


 握手が終わったのを見計らって俺がそう言葉を返すと、ランドウはぐりんと目を見開き、俺のことをじぃっと見つめてきて……その状態のままその口をぐにぃと開く。


「わぁ、喋った、ウサギなのに。

 いえ、すいません、差別的思想と悪意は無いんです。

 悪意は無いんですけど、私、思ったことをそのまま言葉にしちゃう性格でして。

 性格と言えばファルコ氏、アナタあまり良い性格をしてませんね?

 アナタが提出した政府への報告書全て読ませて頂きましたが、良くないです、本当に良くないです、性根の悪さが文章に出ちゃってます。

 ガルグイユ、あれについてはまぁいいんですが、ワイバーンの変異種、あれについての報告が雑だったのがすっごく良くないですね。

 知ってます? 最近続いているんですよ、モンスターの変異。

 いえ、正確には最近じゃなくて過去にも、銃が本土を席巻した際にもあった現象でして、つまりはまぁ、ガンガン狩られすぎて、数を減らした魔物達の種の保存的本能と言いますか、ああいった変異をし、過酷な環境を生き残れる存在に、自らを昇華しようとするという、そういう能力を連中は持っているようなんですよ。

 陸の魔物はまぁよかったんですよ、どんなに変異しようが所詮は獣、銃の獲物、銃弾を防ぐ鱗のない雑魚ばかりだったんで。

 ただですね、強固な鱗を持つワイバーンやドラゴンがああいう変異で厄介な存在になっちゃったらですね、もう大変です、辺境は勿論のこと、本土まで危機に晒されてしまうかもなんですよ、分かってますか? ことの重要性を。

 あの首の調査、順調とは言い難いようですが、それでも分かります、アレとっても危険で大変で、だから真剣に取り組む必要があるんですよ、何事にも。

 あれ? 私、何の話してましたっけ、えーと、えーと、あ、そうだ。

 変異種がやばいから新しい機関銃を急いで作らなきゃいけないって話でしたね。

 いやいや、本当にこれをやっておかないと、人類文明の終焉、種の絶滅、今までの人類の努力が全部ぱぁってことになりかねないので、一緒に頑張りましょうね」


 瞬きもせず、視線を固定したまま、口だけを動かしてそう言ってくるランドウを見て俺は……この仕事、100万でも安かったかもしれないなと、早々に後悔をしてしまうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る