第86話 次の仕事は……



――――遺跡 ???



「魔導、魔導かぁ。

 そうくるとは思わなかったなぁ……でもこれは、予想外の良い流れになるかもしれないね」


 そんな声が響く遺跡のある一室に、一人の女性が……厳しい目つきで拳銃と携帯ライトを構える、赤毛の女性が慎重に、気配と音を殺しながら入ってくる。


「誰かいるんですか? ここは一応、国が管理している遺跡なので、原則一般人は立ち入り禁止ですよ」


 そう言って構えていた拳銃の銃口をゆっくりと、その部屋の右から左へと向けていって……そうやってその部屋に誰もいないことを確認すると女性は、拳銃の安全装置をかけ、ほっと息を吐き出す。


「気のせい……だったかな。

 声が聞こえた気がしたんですけど……」


 続けてそう言った赤毛の女性は周囲を警戒しながら……誰かが潜んでいてもすぐ対応出来るようにと神経を尖らせながら、その部屋から立ち去っていくのだった。

 


 ――――屋敷で ラゴス



「という訳で、遺跡の調査にいったら変な声がしまして……いやー、幽霊でも出たかとビックリしましたよ」


 1000万の件を皆に話したあの日から三日が経った日の夕食の席で、クレオがそんなことをなんとも軽い調子で報告してくる。


 その話を受けて俺が……あそこが立ち入り禁止だったなんて話、初めて聞いたぞと驚き、身を固くしていると、アリスが「あはは」と笑い声を上げる。


「ラゴス、幽霊が怖いの? 耳がピンと立っちゃってるよ」


 笑い声の後にアリスがそう言ってきて……まさか何度も何度も、立入禁止とは知らず遊びに行ってましたと言えずに俺は「ちげぇよ」とだけ返す。


「最近は妙に落とし物が多いですし……どうもあの遺跡に住み着いている人が居るんじゃないかって、そんな噂も立っているようですね。

 あんな所に住むくらいなら、整備工場にでも行って寮に入らせて貰えば良い訳で、わざわざあそこに住む人なんているんですかねー」


 俺とアリスのやり取りに構うことなくクレオがそう言葉を続けてきて……俺はニヤニヤしているアリスから視線を外し、クレオに言葉を返す。


「……俺も遺跡側を通りかかった時に落とし物を拾ったが……あれ以外にも何か見つかっているのか?

 というか、クレオ、お前は遺跡で一体何をしていたんだ?」


「変な鉄の塊とかー、変なガラスが張ってあるプレートとか、なんか色々落ちてるんですよねー、最近。

 そして! 自分が遺跡で何をしているも何も! そもそも自分は陛下の代わりに遺跡を調査するって名目でこの島にいますので! 当然遺跡の調査ですよ!」


「あー……そう言えばそうだったか。

 そうか……たまに出かけているのは遺跡の調査だったのか。

 俺はまた以前やりあったハイエナ連中とか、神殿の連中の件で忙しいのかと……」


「それらについてはとっくのとうに終わりましたよ。

 面倒な案件ではありましたが、最近になって色々とあった神殿の方々が、ぱったりと大人しくなったんで、思ってたよりも早く終わりましたね」


 その言葉に俺とアリスと、ルチアが異口同音に『へぇー』と言うと、クレオは苦笑しながら言葉を続ける。


「なんか聖女って人が神殿改革を訴えてですねー、それがまた結構な勢力になってるらしいんですよ。

 獣人を差別すべきじゃない、獣人は神の御使いだ、神殿は間違いを認めるべきだーって、そんな感じで。

 で、神殿の人達としてはそっちに対処するので精一杯で、他の些事に対処してられないって感じのようです」


 それを聞いて俺とアリスとルチアは似たような驚きの表情を浮かべて……そうしてお互いの顔を見合ってから、俺が代表する形で言葉を返す。


「……神殿の人間がそんなことを言っちまって大丈夫なのか?

 神殿の考えと真っ向から対立してるだろ、それ」


「いやー、それがですねー、対立しているからこそ良いっていうか、元々神殿の教えとかやり方は時代遅れの部分がありましたから、そういった部分で不満を持っている人達が結構な数居たみたいでして、その方々が同調して一大勢力になってるみたいなんですよ。

 表向きは神殿の教えに従いつつも、獣人の方と仲良かったり、恋人だったりする人もいる訳で、そういう人達もどんどんと参加していってー……この調子だと古い考えの方々は負けちゃうんじゃないですかねー」


「はー……そうなったら神殿も色々変わることになる訳か。

 聖女……聖女ねぇ……。

 どんな奴なんだろうなぁ」


 と、そんな事を呟いてトマトスープに浸したパンを口に運んでいると、食事を終えたアリスが、コップの中の水を飲み干し……そのコップをカンッとテーブルに置いてから声を上げてくる。


「神殿の話もいいけどー、そろそろ仕事のお話しない?

 なんだかんだ前回から日が空いちゃったしー、そろそろ選り好みをするのを止めて、軽いのでも良いから何かお仕事したほうが良いと思うんだけどー」


 その言葉を受けて俺とクレオは同時に「あー……」と言葉を上げる。


 やる気はあるものの、探しても探しても良い仕事に巡り会えず、良い機会に恵まれず……どうにもだらけた空気に包まれてしまっていた。

 

 前回の食事会で、あんなにやる気に満ちたことを言ってたくせになぁと、自分に呆れた俺は「そうだな」とそう言って、一旦席を立つ。


 そうして自室へと向かい、グレアスから二日前に届いた追加の依頼書の束を手にとって、食堂へと戻り、テーブルの上にそれをばさりと置く。


「じゃぁまぁ……この中から何か探すとしようか。

 選り好みをしすぎずに、少しハードルを下げてそれなりに稼げそうなのってことで、どうだ?」


 と、席につきながら俺がそう言うと、アリスとクレオは頷いてくれて……それを受けて俺は、夕食の残りを一気に口の中にかき込み、もぐもぐと咀嚼しながら依頼書の束の一部を手に取る。


 アリスもクレオも同様に依頼書を手にとって一枚一枚丁寧に眺めていって……と、俺達がそうする中、ルチアが片付けを始めてくれる。


 そうして依頼書の確認と片付けが順調に進んでいく中……誰が落としたのか、一枚の依頼書をルチアが拾ってくれる。


「これ、落ちてましたよ」


 拾ってそう言いながら差し出された依頼書を受け取った俺は、そこに書かれていた文字を見て……ごくりと口の中の物を飲み下し「おっ、これは中々……」と、そんな言葉を漏らすのだった。

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