第54話 ケスタ島のバレットジャックパーティ


 それから俺達は、市場の責任者が持ってきたワイバーン素材の売上金、1000万リブラという額面の小切手を受け取り……依頼料とを合わせて1380万リブラとなった大金を、俺とアリスと1人と数えての、4等分にすることを約束し……1人345万という中々の報酬を得ることになった。


 ガルグイユの時と比べると少し目劣りする金額だが、国からの依頼と比較するのもおかしな話……たったの一日でこれだけ稼げたのだから良しとするべきだろう。


 ちなみにあの化け物の首に関してはクレオの伝手で、軍の調査チームの方へと送られるそうだ。

 あれがどんな存在だったのか、どうしてああなったのか……残った首を使っての調査が行われ、その結果次第ではまた報奨金が出るらしい。


 ただ肝心要の本体の方がああなってしまった以上、あの首をいくら調べても何も分からないということもあるそうで……その場合は素材としての買取金しか出ないそうだ。


 ……まぁ、それでも金になるならそれで良し。

 軍人であるクレオを仲間に引き込んだ以上はこういうこともあるだろうと受け入れて……そうして俺達はその日一日、痛む身体に悶ながらの休日を過ごすことになった。


 俺とアンドレアとジーノは宿で横になり続けて、アリスとクレオは元気に観光を楽しんで……翌日。


 朝日を感じるなり目を覚まし着替えを済ませて、顔を洗い歯を磨き……今日という一日を楽しむ準備を整えた俺達は、朝食も何も口にしないまま、ちょっとした駆け足になりながら宿を飛び出し、島中の人が集まったんじゃないかというくらいの賑わいを見せる、港へと駆け込んだ。


 今日は全て依頼人の奢り、以前に続いての食べ放題。


 水揚げされたばかりのバレットジャックを、たっぷりと食べてやるぞと俺達は、早速調理が進んでいる一画へと足を向ける。


 ここケスタ島は、我らがナターレ島とはまた違った料理でバレットジャックを楽しんでいるらしいが、さて……どんなものだろうかと調理場を覗き込むと、そこには……なんとも香ばしい匂いを放ちながらじゅうじゅうと音を立てて鉄板の焼かれるバレットジャックの切り身の姿があった。


 バレットジャックを焼くこと、それ自体は珍しくないが……しかしこの香ばしい匂いは一体?

 ただバレットジャックを焼いただけではこうはならないだろうという香りに、俺達が首を傾げていると、鉄板の前で鉄ヘラを構えていたおばさんが声をかけてくる。


「これはね、バレットジャックのガルムソース(魚醤)漬けだよ。

 魚から作った香ばしいソースに、刻んだニンニクを足して、バレットジャックの切り身を漬け込んで、そのまま食べるなりこうして焼くなりって訳さ。

 本当は一日くらい漬け込んだ方が美味しいんだけどねぇ、この島のせっかち男達は待つことを知らないおバカばっかりだからねぇ、こうして焼いてるって訳なんだよ。

 1・2時間しか漬け込んでないから、完璧な仕上がりとは言えないけど……どうだい? 食べてみるかい?」


 そんなことを言われてしまったら食べるしか無い。

 俺はおばさんから皿とフォークを受け取って、その皿の上に焼いた切り身を置いてもらって……早速とばかりに香ばしい匂いを放つそれを口の中に放り込む。


「う、うめぇ……!」


「あ~~~、好き、私これ好き!」


 まず声を上げたのは俺とアリスだった。

 食べ慣れない味だったが、丁度いい塩加減でたまらない香ばしさが口いっぱいに広がって……ニンニクとバレットジャックの脂の旨味も、良い感じにマッチしている。


 アンドレアとジーノは何も言わずにもくもくと切り身を食べ……クレオは、


「お、おかわり! これもっともっと、たっくさんください!」


 なんて声を上げて皿をおばさんの方へと突き出す。


 そうやって全く新しい味のバレットジャックを楽しみながら周囲を見渡すと……どうやら周囲もこんな感じの、ソース漬けのバレットジャック料理を披露しているようだ。


 ヨーグルトソース。

 ビネガーをメインにしたソース。

 赤ワインや白ワイン、酒をメインとしたソースに。

 果汁をメインとしたソース。


 それらでバレットジャックを漬け込んで、焼くなり煮るなり揚げるなりして、俺達の知らない全く新しいバレットジャック料理を作り出している。


 その光景を見て、そこから漂ってくる香りを嗅ぎ取って、我慢できなくなったらしいアンドレアとジーノは、ビールを販売している一画へと駆けていって……俺とアリスとクレオはその場に残り、そのままただひたすらにバレットジャックだけを頬張り続ける。


「っはー……マジでうまいな、これ。

 ソース漬けならナターレ島でも出来るだろうし、来年また水揚げしたら試してみるのも良いかもなぁ」


「そしたらアレだね、トマトソース試そうよ、トマトソース。

 こっちはトマト少ないみたいだし、ナターレ島だけの一品になるかもよ」


「自分はアレですね、モルトビネガーと調味料と香辛料と、野菜と果物を煮込んだソースでやってみたいですね。

 あ、変な顔してますけど……ちゃんと煮込めば結構美味しいんですよ?」


 俺、アリス、クレオの順でそう言って……とりあえずガルムソース焼きを満足するまで楽しんだ俺達は、さて次は煮込みに行くか、揚げに行くか、それとも別のソースに行くかで悩んで……お互いの目を見合って、頷き合い……ガルムソース揚げの一画へと足を向ける。


 このソースの香ばしさ、絶対に揚げに合うぞと意気込んだ俺達は、結局この日は、ガルムソース料理だけで腹をいっぱいにしてしまうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る