第53話 依頼達成


 化け物との戦いを終えた俺達は……機関銃の残弾が0に近いこともあって、それ以上その場には留まらず、港へと帰還することにした。


 港へ帰還するなり、依頼人のあの男に仔細を話し、ワイバーンの巣の確認と落ちた首の回収を依頼して……それから飛行艇を整備工場に預けた俺達は、そのまま荷物と共に宿へと駆け込んで、出された食事を駆け込み、風呂で汗を流し……これといった会話をすることもなく、それぞれのベッドへと倒れ込んだ。


 移動からのワイバーン戦、更にそこからの化け物戦というのは、思っていた以上に身体に負担をかけてしまっていたようだ。


 次回からはもう少し、しっかりと引き時の見極めをしないとな、なんてことを考えながら目を瞑り……翌日。


 俺はきしむような体の痛みに叩き起こされることになる。


 筋肉痛というか、疲労痛というか、全身くまなく、指先までが痛くて……、


「ぐぎぎぎぎ」


 なんて声を上げながら起き上がり、痛みに悶ながらもどうにか着替えを済ませて白石壁、白石床の食堂へ向かうと……どうやらアンドレアとジーノも同じ痛みに苦しんでいるようだ。


「は、はは、アニキもですか、少し無理しすぎましたね」


「……長年飛行艇乗りやってますが、こんなの始めてです。

 まぁあんな戦闘をしたこと自体始めてなんですけど……」


 二人用の丸テーブルに座りながらそう言ってくるアンドレアとジーノに「ああ……」とそんな声を返した俺は、アリスとクレオが座っている大きめのテーブルの席につく。


「ラゴスまでかー! なっさけないねー!

 クレオさんは平気なのにねー!」


「まぁ、自分は鍛えてますから……ラゴスさん達もこれを機に身体を鍛えると良いですよ。

 飛行艇乗りは身体が資本、鍛えておいて損することはありませんから!」


 今度はアリスとクレオにそんなことを言われて……俺は苦い顔をしながら言葉を返す。


「……クレオはまだしも、アリスはなんだってそんな平気な顔してるんだ?

 操縦していないとはいえ、それなりに緊張したはずだし、疲れたはずだろう?」


 するとアリスはきょとんとした顔をし、小首を傾げる。


「え? 全然?

 昨日はあれからクレオさんと色々喋りして、眠ったのは結構遅くになってからだけど、それでも全然平気、どこも痛くないし、疲れも残ってないよー」


 女性部屋ということで、クレオと大きめの部屋に泊まったアリスは、どうやら夜遅くまでクレオと雑談を楽しんでいたようだ。

 それに付き合っただろうクレオも全然平気だと、その表情で示していて……それを見た俺は、なんだってアリス達はそんなに強いんだと、がっくりと項垂れる。


 そうしてから大きなため息を吐き出し、軽めの朝食を注文し……ゆっくりと少しずつ楽しんでいると、そこに依頼人が駆け込んでくる。


「おう! 島の英雄さん達! 揃ってるな!

 今さっき巣の破壊が完了したって連絡があったよ! 例の首は回収してクレオ嬢に言われた通り、軍の回収船とやらに預けるように手はずを整えておいた!

 ワイバーンの換金の方も今日の朝市で大方が片付いた!

 後は俺からの依頼料の支払いが済めばアンタらの仕事は終わりって訳だ、つーわけで、はいよ、小切手だ」


 と、そう言って男は俺へと一枚の小切手を差し出してくる。

 早速確認すると額面は380万リブラで……。


 380万リブラ……?


 ワイバーン一匹20万で18匹だから360万のはず……。

 ……いや、そうか、あの化け物も一応ワイバーンか、ならアレを含めて19匹の380万という訳か。


 そう納得した俺は小切手を受け取って懐にしまい込み、そうしてから言葉を返す。


「依頼料は確かに受け取った。

 それで、ワイバーン素材の金はどうなるんだ?」


「そっちはもうちょっとしたら市場の責任者が小切手を持ってくるはずだ。

 素早く片付けてくれた礼として、弾代油代以外にも飛行艇の整備費もこっちで持つが、市場の利用料なんかは流石に無理なんでな、そこらへんを今、売上から精算してくれているはずだ。

 それで構わねぇだろ?」


「ああ、問題ない。

 むしろ弾代燃料代の一部負担って話だったのに、整備代まで持ってもらって悪いと思っているくらいだ。

 ……本当に良いのか?」


「構わねぇよ。

 俺もあの後すぐに巣に足を運んだんだがな……そこら中に飛び散った肉片を見れば、あの巣にどれだけの化け物があそこにいたのか……大体のことは想像がつく。

 そこら辺の確認をしねぇで依頼を出しちまって……やれ情報不足だ、やれ騙されたって文句つけられてもおかしくねぇのを、なんにも言わずに片付けてくれたんだ、整備代くらいは安いもんよ。

 本当はもう少し報酬に色をつけたかったんだがな……俺もそこまでのお大尽じゃねぇんでな、勘弁してくれや」


 その言葉に俺はこくりと頷いて「分かった」とだけ言葉を返す。


 するとアリスとクレオが笑顔を送り、アンドレアとジーノが手を振って……それぞれ了承の意を示す。


 そんな俺達の態度を受けて依頼人は、ぼりぼりと頭を掻いて俯いて……そうしてから顔を上げて明るい表情を見せる。


「……ったく、文句の一つも言われねぇんじゃこっちの立つ瀬がないぜ。

 しゃーねぇなぁ……今さっきバレットジャックの群れがこっちに向かってるのを見つけたって報告が入った。

 漁は明日早朝……水揚げが終わったら俺のおごりだ、好きなだけバレットジャックを食わせてやるよ。

 それが俺からの情報不足の詫びであり、依頼を綺麗に完了してくれたアンタらへのボーナスだ!」


 と、そんな依頼人の言葉を受けて俺達は、痛む身体に悲鳴を上げながらも明日が楽しみだと、歓喜の声を上げるのだった。

 

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