第52話 VS化け物 その2


 俺がクレオに勝っているのは機体性能もそうなのだが、何よりもアリスという相棒がいてくれるということだろう。


『うん、こっち見てる、まだ見てる。

 クレオさんの飛行艇より速いからびっくりしてるみたいだね……このまま奴の飛び回って!』


 と、アリスは、敵の様子をしっかりと見て、逐一俺にそう報告してくれて……これが的確でとても頼りになる。


 無理をすれば自分の目で敵の様子を見ることは可能だが、そのためにはかなりの集中力を割かなければならず、結果として半人前の俺は……ひどい飛び方をしてしまうことだろう。

 

 だがアリスがそうしてくれているおかげで、敵や味方の様子を細かく報告してくれるおかげで、俺はただ操縦にのみ集中していれば良い、という訳だ。


 もちろんこれには、アリスへの信頼感というか、以心伝心というか、呼吸が合うことが必要不可欠な訳だが……なんだかんだとそれなりの期間、お互い手を取り合いながら暮らしてきたおかげか、その点に関しては全く問題はない。


『あー、あ、あーー!

 そこそこ、そのまま! 待って待って……はい! そこそこ!』


 と、興奮してしまったアリスが、そんなデタラメな報告をしてきたとしても……まぁまぁ、なんとか、言いたいことを理解できる程度には、俺とアリスの呼吸はしっかりと噛み合っていた。


『あ~、あ、あーーーー、あーーー!』


「いやいやいや!? もう少しちゃんとした言葉を使ってくれよ!?

 流石にわかんねぇよ!?」


『あ、ごめんごめん、なんかそれでも通じちゃってる感あって、手を抜いちゃってた!』


 そんな会話をしながらも俺は、化け物の攻撃を回避し、回避しながら化け物を挑発するかのように機体を回転させて、化け物のすぐ側を舞い飛ぶ。


 すると化け物は一切の遠慮なしに次々に炎弾を吐き出してきて……炎弾が俺達の直ぐ側をかすめていって、熱いくらいの熱を浴びせかけてくる。


 3本首でこれ……4本首の時、よくクレオは被弾しなかったなと、戦慄しながら俺が舞い飛んでいると、クレオ達が狙いをつけたのだろう、機関銃の発射音が周囲に響き渡る。


『命中! 削って削って……うん、落ちた!

 2本目!』


 とのアリスの報告を受けて、俺は一旦化け物から距離を取り、旋回し化け物を正面に捉えてその様子を自らの目で確認する。


 2本の首を失ってそれでもまだ余裕というか、気にした様子もないというか……むしろ身体が軽くなって動きやすくなったと言わんばかりに元気な化け物。

 首を落とされての傷口は綺麗にふさがっていて……まだまだ戦いはここからが本番のようだ。


 俺は真っ直ぐに化け物の方へと飛び、銃弾を適当に叩き込み……そうしながら再度、囮役を買ってでる。


 首が2本になれば少しは楽が出来るかと思ったが……あの様子ならそういうこともないようだと気を引き締めて、しっかりと操縦桿を握り、アリスの言葉に耳を傾けながら化け物の周囲をひらひらと舞い飛ぶ。


 そこへ炎弾が次々と放たれ、熱が襲いかかってきて……その熱を全身で受けた俺は思わずぼつりと呟く。


「なんか、炎弾大きくなってないか? 熱も増しているような……」


『うん、確実に大きくなってる、遠目に見ても分かるくらいに大きくなってる。

 口が減って、吐き出す数が減って、その分濃縮されたっていうか、大きくなったっていうか……。

 これ、残りの首が一つになったら、とんでもないことになりそうだよ……?』


 すぐにアリスがそう返してきて……少しの間悩んだ俺は、悩んだ末に考え出したことをそのまま口にする。


「なら、もう一つの首をクレオ達が落としたら、その瞬間囮役を止めて攻撃に転じよう。

 首が一つならわざわざ囮役をする必要もないだろうし……首を落とされた化け物が痛みに悶てる間にトドメをさしてしまえば良い話だ。

 クレオ達は機関銃を休ませるために一旦距離を取るだろうが、俺がそうしていればすぐに援護に来てくれるだろうし……うん、悪くない考えだ」


『あー、そだね。

 いちいち距離とったりなんだりしないで即攻撃、それが一番だね。

 どうする? 光信号出す?』


「いや、戦闘中はやめとこう……そしてアリス、敵の様子の観察を方も忘れないでくれよ!

 3本目を落とすまでは囮役を続ける必要があるんだからな!』


 と、そう言って俺は機体を激しくロールさせる。

 なんとなく嫌な予感がしてそうした訳だが……先程まで俺達が居た場所を通り過ぎていく炎弾を見て、予感を信じてよかったと、心底から思う。


『うっわ、あぶな!?

 と、とりあえず首が落ちるまでは私がちゃんと見とくよ!』


 それからアリスは敵の動き、表情、炎弾の発射方向を逐一、丁寧に報告してくれて……俺はそれを信じて飛行艇を操り、化け物から放たれる攻撃全てを回避しながら、囮役を続けていく。


 ぐるぐると、ぐるぐると、ワイバーンの巣の上を飛び回り、操縦桿を握る手が汗でふやけて、脚は緊張でしびれ、風を受けて震える顔の毛はその全てが抜けてしまいそうな程傷んでいて……それでも回避に専念し、粘っていると、アリスから念願の報告が上がる。


『攻撃……! ……命中、削って削ってー……落ちた! ラゴス、落ちたよ!』


 それを受けて俺はすぐさま旋回し、最後の首を落とすための攻撃態勢に出る。


 最悪落としきれなくても、首を攻撃し続けていれば炎弾は吐き出せないだろうと……無理に吐き出そうとすれば銃弾を受けた穴からひどいことになるに違いないと心を決めて、全神経をスコープに集中させて、ぐいとトリガーを押し込む。


 クレオ達は態勢を整えるために一旦化け物から離れているようで、俺達だけの攻撃となったが……効果はしっかりとあったようで化け物の首から血と絶叫が吹き出す。


「ちぃ、やっぱ一機じゃ落としきれないか!

 アリス! クレオ達はどうしている!?」


『旋回してる! すぐに来るはず……来る、もうちょっと、来る、来た!』


 俺の言葉にアリスがそう返した直後、クレオ達の銃弾が降り注ぎ……俺は化け物に近づきすぎた為に攻撃継続を諦め、機首を上げての旋回態勢を取る。


 再度の攻撃を仕掛けてやろうと、反転して化け物を正面に捉えて……そうこうするうちにクレオ達がトドメを刺してくれるかな、なんてことを考えていると、クレオ達が大慌てと言った様子で化け物から距離を取り始めて……俺はどうしてクレオ達がそうしているか分からないまま、それでも仲間の行動を信じて化け物から距離を取るために機首をぐいと上げる。


 そうして化け物から距離を取り、化け物の炎弾が届かない所までいった所で、傷ついた首で、銃弾に切り裂かれ折れて落ちかけた首でもって……無理に炎弾を吐き出そうとした化け物が、体内にある炎弾を作り出す器官に何らかの負担をかけてしまったのか大きく膨れ上がり……そうして爆発四散する。


 凄まじい衝撃と熱が周囲にばらまかれ……パラパラと化け物の残骸が巣に落ちていくのをじっと見つめた俺達は、


「えぇ……マジか……」


『あーーーー!? そ、素材がーーーー!?』


 と、そんな声を上げるのだった。

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