第48話 遭遇戦2


 ワイバーン達を挟み撃ちにしたジーノ達は、ジーノが上昇、アンドレが下降する形でワイバーン達から距離を取り、すれ違う。

 

 緑色に塗られた二機の翼がギシギシと唸り声を上げて、古びながらも手入れのされたエンジンがもうもうと黒煙を上げていて……そこにクレオの真っ赤な飛行艇が真っ直ぐに突っ込んでいって、二丁の機関銃を発射し続けながら、俺の真似をしようとしているのかワイバーン達の間をすり抜ける。


 エンジンを唸らせ機体を震わせながらのその突進は全く見事なもので……まだなんとか生きながらえているワイバーン達がせめて一撃でもとクレオを攻撃しようとするが、その速さと、大胆さに負けて結局攻撃し損ねる。


 そうやって三機の機関銃をこれでもかと叩き込まれたワイバーン達は、1匹、また1匹と落下していって……そうして最後の1匹が着水し、戦闘は終了となる。


「お、おお……流石というかなんというか、6匹があっという間だったな。

 ジーノとアンドレアの無言の連携も見事だったし、クレオも見事だった……放った銃弾のほぼ全てが命中してたんじゃないか? 凄まじいな」


 エンジンの回転速度を落とし、旋回させていた機体を水平に戻しながら俺がそう言うと、感嘆の声を漏らしたアリスが言葉を返してくる。


『おー……本当にすごかったねぇ、味方がいるとこんなに楽なんだね。

 一機だったら何度も何度も旋回して、何度も何度も敵を正面に捉え直さないとだけど、味方がいるとそれだけで、その回数がぐっと減るんだねぇ』


「そうだな、後ろを任せているって安心感もあるし……かなり楽に飛べるな。

 ジーノとアンドレアがやってみせた無言の連携なんかも出来るようになればもっと楽になるだろうが……まぁ、そこは経験の差ってやつなんだろうな」


『で、どうする? 

 ワイバーン6匹の回収は後にする? 今やっちゃう? 今回収するとなると、それで帰還することになる訳だけど……3と6で9匹、情報通り10~20の群れなら半分くらいはやれたことになるよね』


「あー……どうするかな。

 20のうちの9としてもかなり数を減らせたことになるが……」


 と、俺達がそんな会話をしていると、クレオの機体が猛然とエンジンを唸らせて加速し始める。


 エンジン音に引っ張られる形でその様子を視界に捉えた俺は、一瞬だけ一体何をやっているんだと訝しがるが、すぐに『何か』を見つけての戦闘態勢なのだと気付いて、操縦桿をしっかりと握り直す。


「アリス! 周囲の確認を!」


 そう言ってから機体を加速させて、同じく加速し始めたアンドレアとジーノの上を飛んで視界を広く取る。


『クレオさんが向かってる方向にワイバーンが1、2、3……9! 今度は9匹!』


 直後アリスが声を上げてくる。


「9!? 島で3、さっき6、そして9?

 一体ワイバーンの巣に何があった!?」


『え? そんなに驚くようなこと? 合計してもまだ20じゃないよ?』


「全部で20として、20匹全部が巣から出てく訳がないだろう!

 巣を守るやつと卵を守るやつ、ヒナが入るならその世話係だって必要なんだろうし、巣の守りがたったの2匹なんてことあるか?

 そもそもの情報が間違っているか、巣で何かあったかのどっちかだろう!」


『あー、なるほど』


 少し間の抜けたアリスのそんな言葉を耳にしながら俺は、先行しているクレオに追いつこうと速度を上げていく。


 速度を上げて上げて上げていって……ある程度まで上げた所で俺は、そこでようやくクレオの意図を理解して……速度を落とし、クレオに先頭を任せることにする。


 先頭を俺が行き、次にアンドレアとジーノが続いて、クレオが最後尾で戦場を俯瞰するというのがクレオが提案した作戦だった訳だが……今は自然な形でクレオが先頭という形となっている。


 ならば無理にその前に出るよりも、クレオに俺の役目を任せて、俺は俯瞰役に徹するべきと、そういうことなんだろう。


 さっきの戦闘で分かったことだが、クレオの飛行艇は思っていた以上の性能で、クレオの腕も度胸も超一流だ。

 先頭を任せることに何の不安もなく、俺は速度を落としながら上空で構え……ワイバーン達とクレオと、アンドレアとジーノを視界に捉える。


『そっかそっか、そういうことか。

 クレオさんに前を任せるんだね。

 ……さっきのラゴスより活躍しちゃったりして?』


「……あっちは本職なんだから、それが普通だろう。

 俺はまだまだ素人に毛が生えた程度のもんだぞ」


『もうそれで生計を立てている上に、家まで買おうとしてるんだから、いつまでもそんな情けないこと言わないの』


「ぐっ……」


 そんな会話をしながら俺達は……ばらばらに何の秩序もなく空を飛び舞うワイバーン達と接敵する。


 すると先頭を往くクレオは、その機体を左へとゆらりと揺らし……そうしたかと思った次の瞬間右方向へとくるくると、まるで木の葉が風の中を舞うかのように回転しながら、機関銃を唸らせる。


 機体を横回転させての、横一直線の銃撃。


 まさかそんなことが可能なのかと俺が驚愕する中クレオは、機体を立て直し……立て直しながら高度を上げて反転の態勢を取る。


 そんなクレオをフォローしようとアンドレアとジーノがワイバーン達の方へと向かうが……既に勝負は決していた。


 クレオの銃撃で絶命しているか、絶命してないまでも相応の怪我を負ってしまっていて……無傷のワイバーンは存在していない。


 そこにアンドレアとジーノが襲いかかれば、抵抗らしい抵抗など出来るはずもなく……まさかの遭遇戦は、そうして決着するのだった。

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