第49話 インターバル


 18匹という破格の戦果を上げた俺達は協力して会場に浮かぶワイバーン達を縛り上げ、4機の飛行艇でもってそれらを牽引し、すぐさま港へと引き返した。


 またワイバーンがやってきたなら牽引しているワイバーン達を捨てて戦わなければならない訳で、来てくれるなよと祈りながらの帰路だったが、以降ワイバーン達が姿を見せることは一度もなく……そうして俺達は無事に港へとたどり着くことが出来た。


 尋常ではない数のワイバーンを牽引しながら戻ってきて俺達を目にするなり、ケスタ島の人々はこんな短時間で巣を壊してくれたかと沸き立っていたが、港に降り立った俺達が事の次第を報告すると、その表情を暗くする人もあれば、俺達の杞憂だろうと笑う人もあり……そうした様々な反応を見せながらも、兎に角俺達の仕事を手伝おうと、総出でワイバーンの水揚げを行ってくれて、飛行艇に関しても、島中の整備員をかき集めて再出撃の為の整備を速攻で行ってくれるそうだ。


 ワイバーンの巣で何が起こっているのか、その確認は出来るだけ早くしたほうが良いだろう。

 まだまだ昼を少し過ぎた程度の時間……整備と弾丸の補充が済んだなら二度目の出撃をすべきだろうというのが、俺達の出した結論だった。


 そういう訳で俺達は整備が終わるまでを港近くのレストランで過ごすことになり……食事をするなり、水分を補給するなり、トイレにいくなり、それぞれの休憩時間を過ごしていた。


「……そう言えばクレオ、最後のあの銃撃、あれはなんて技なんだ?」


 オープンテラスの一席に深く腰掛け、というか椅子に身体を投げ出して預けながら、紅茶を飲んでいた俺がそう言うと、ガツガツと魚のフライを口の中に放り込んでいたクレオがもぐもぐと口を動かし、中のものすべてを飲み下してから言葉を返してくる。


「思いつきでやっただけなんで、名前なんて無いですよ。

 操縦としてはそんなに難しくないですし、やろうと思えば誰でも出来るとは思いますが……まぁ、マネしないほうが良いと思いますよ。

 狙いも何もあったものじゃないので命中率がひどいことになりますし、何度もやってるうちに弾詰まりを起こしちゃうでしょうから」


「……いや、でも、結果としては大成功だっただろ?

 アレは狙っての大成功じゃなかったのか?」


「いやー、初めての実戦でついついテンション上がっちゃって!

 で、やったらどうなるかなって興味が先に立っちゃって……で、やっちゃったって感じなんで!

 後のことは全然考えてなかったですし、終わってみて思うのは、うまくいって本当に良かったなー……って、それだけですね」


 そう言ってにっこりと笑い……食事を再開させるクレオ。


 その言葉を受けて笑顔を受けて、俺は「ああ……」と呟き理解を諦める。


 これはアレだ、天才の理論というか、ド天然の発想ってやつなんだろう。

 凡人には真似しようと思っても真似出来ない領域というか、クレオだから出来る荒業というか……兎に角アレは、クレオロールとでも名付けたくなるアレのことは綺麗さっぱりと忘れることにしよう。


 俺は俺で一つずつ……正攻法の、教科書に載っているような戦い方でやっていくとしよう。

 まぁまずはその、教科書に載っているような乗り方を完全にマスターする必要があるというか、練習をしっかりとする必要があるのだが……。


 なんだかんだと仕事やらトラブル続きでそこら辺を疎かにしてしまっているからなぁ、そのうちなんとかする必要があるだろう。


「……ところでアニキ、ワイバーンの巣で一体何が起こってるんだと思います?

 オレとしちゃぁアニキの考えすぎで、これで仕事は終わり、明日にでも我らがナターレ島に帰れるんじゃないかって思っちゃってるんですが……」


 俺とクレオの会話が一段落したのを見てか、テーブルの上にぐいと身を乗り出してきたアンドレアがそう言ってきて……俺はため息まじりの言葉を返す。


「さぁなぁ……学校にもいっていない俺にそんなことを聞かないでくれ。

 ……ただ、どうあれ整備が終わり次第に巣の確認はしにいくぞ、確認して何事もなければそのまま巣を破壊するだけだし……何事かがあればそれに対処するだけのことだ。

 賞金稼ぎとして金を貰う以上はってのもあるが……ケスタ島の人達の為にも中途半端なことは出来ないだろう」


「はーい! 私もそうおもーう!」


 クレオの隣に座りながらジュースを飲んでいたアリスが俺の言葉にそう賛同してきて、クレオもそれに続いてくる。


 と、そんな中真剣な表情をしたジーノが女性陣の声に怯むことなく声を上げる。


「……ラゴスさん、その考えには概ね賛成なんですが……ただ金は所詮金ですし、やっぱり命の方が大事ですし……。

 ヤバそうなら逃げることも考えてくださいね? 所詮俺達は賞金稼ぎ……ヤバそうなら軍に任せるべきです」


「……まぁ、そうだな。

 幸いクレオが居る訳だし、クレオでもヤバいと思った案件なら本土の軍が動いてくれるに違いない。

 だがまぁ、その判断のためにも巣の現状を確認することは必要だからな……確認だけは依頼を受けた筋としてしっかりとやるとしよう。

 巣までいって、状況を確認……対処できそうな状況なら対処して、ヤバそうだと判断したなら……アリスが光信号で指示を出す。

 指示が出たなら全員即撤退……兎に角全員が無事に帰ることを優先しよう。

 クレオは軍人として何かあるか?」


 俺のそんな言葉にクレオは何も返さず、食事を続けながら顔を左右に振り、何も無いと示してくる。


 軍人としては背を見せられないとか、最後まで戦うとか、そんなことを言ってくるかと思ったが……どうやらそんなことはないようだ。


「……だって、死んじゃったら美味しい魚が食べられないじゃないですか。

 自分、まだここに来るだろうバレットジャックのこと諦めてませんからね」


 俺は何も言っていないのだが、表情から読んだのか口の中のものを飲み下し、そんなことを言ってくるクレオ。


 クレオのその一言に大なり小なりの笑顔を浮かべた俺達は……美味しいバレットジャックを食べるために頑張るかと、気合を入れ直すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る