第47話 遭遇戦
「まさかあの男が依頼人だったとはなぁ。
依頼人が死んでしまったら依頼料の支払いも何もない……偶然助かったというかなんというか、とにかく間に合ってよかったよ」
トラックでワイバーンへと突撃し、拳銃で攻撃しようとし、炎弾を食らって横転大破。
よくもまぁあのザマで生きていたものだとただただ驚かされる。
『本当だねぇ。
あの人がこの島の大地主で牧場主で……あの人じゃなかったら誰も依頼料を払えなかったみたいだしねぇ』
通信機の向こうのアリスがそう言ってきて……俺はぐっと操縦桿を握る。
あの後あの男に色々と話を聞いたところによると、ワイバーンの巣作りというのは俺達が考えていた以上にヤバい事態であるらしい。
ワイバーン達は巣を作る為に、卵を産む為に、巣と卵を守るためにと、周辺のありとあらゆる生き物を食べ尽くす勢いで食欲を増させるとかで……そうなったワイバーンは普通のワイバーンよりも残忍で、執念深く、獰猛なまでに凶暴化していて、普段からワイバーン狩りを生業としている飛行艇乗り達でも敬遠してしまうような相手なんだとか。
実際にあの島で活動していた飛行艇乗り達は、さっさと他の島に逃げるか、島に残っていながらも整備だの病気だのを理由に出撃するのを拒否していて……そうして島外の俺達へと依頼が回ってきた、という訳だ。
時間が経てば経つ程周囲が荒らされ、次々と卵が孵化して数が増え、最終的には簡単には手出しできないようなワイバーンの巣が、ちょっとした要塞のようなものが出来上がって、軍が出張ってくるまでは人が近づくことの出来ない魔境と化す。
それでも軍が出張ってくれば殲滅は容易であり、そうなればまた人が暮らせる地域となるのだが、それまでは……腰の重い本土の軍が来るまでは、あの島の人々はワイバーンに襲われることになる訳で、その生活圏は確実に破壊され尽くしてしまうのだろう。
そうならないように俺達のような、現地で暮らし臨機応変に動ける賞金稼ぎ達が居る訳なんだが……その賞金稼ぎがまっさきに逃げ隠れしてるってんだから、情けないというか、なんというか……言葉もない。
そういう訳で俺達は、男から話を聞くなり駆け出し、飛行艇に乗って飛び立ったのだった。
今こうしている間にも海のどこかで漁船が襲われているかもしれない、島のどこかで家畜や野生の獣が……人が襲われているかもしれない。
そんな話を聞いてしまっては居ても立ってもいられなかったのだ。
飛行艇に乗り込みながらクレオ達と話し合って……。
まずはワイバーンの数を減らし被害を減らすこと。
一度に殲滅しようとまでは考えなくて良い。
巣の破壊についてはワイバーンを処理してから考える。
との方針を決めて、そうして俺達は今、男から教えて貰ったワイバーンの巣があるという島へと向かっている。
「一番良いのは、さっきの三匹みたいに巣の外に出てきた連中と鉢合わせることだな。
鉢合わせて倒して、鉢合わせて倒してを繰り返すのが理想……巣にいるワイバーンすべてと同時に戦うってのは危険なのはもちろん、ワイバーンの回収って意味でも大変なことになるだろうからなぁ」
あの平原に落としたワイバー3体は、男が手配した連中が回収してくれるそうだが、地上に落ちた三匹を回収するというのは、魔力が残っている状態であっても厄介なんだそうで……巣の上や、巣のある島に落とした場合は更に、何十倍も厄介な作業となることだろう。
最適最良なのは海の上で出会い、海に落とし、その都度回収してあの島まで引っ張ってくという形になる。
『そう都合よく行けばいいけど……。
まぁでも、巣作りと子作りのために積極的に狩りをしているそうだから、巣の外で出会う確率は高いかもね―――ってラゴス、前前、前に何匹かいる!!』
「ああ、見えてる、全部で……6匹か。
アリス! 一応後ろのジーノ達に光信号を頼む!
『敵』『前』『6』だ!」
そう言って俺はレバーに手をやり、エンジンの回転速度を上げながらスコープへと目をやる。
改めて敵の数を数えて……間違いなく6であることを確認し、そいつらへと向かって真っ直ぐに飛行艇を飛ばしていく。
俺の役割は機体の性能を活かして敵の中へと突っ込み、敵を蹴散らし撹乱すること。
後ろの連中が楽に戦えるように、安全に戦えるように、しっかりとその役割をこなさなければならない。
「アリス! どうだ!
ジーノ達は動き始めたか!」
スコープを覗き込みながら俺がそう言うと「うん!」とアリスが簡単で分かりやすい返事をしてきて……ならばと俺はトリガーに指をかける。
出来ることなら2匹か3匹は落としたいところだが……どうだろうなと、そんなことを考えながらトリガーだけでなく、操縦桿と足で踏んでいるペダルへも意識をやって……そうして射程内に入るなりぐっとトリガーを押し込む。
撹乱のために攻撃が終わったなら、連中の側へと突っ込み、連中の動きをかき乱す必要がある。
出来るだけ数を減らした方がそれは容易であり……逆に減らせなければ攻撃されたり、衝突してしまったりという危険性が増してしまうことになる。
最低1匹は当たり前、出来るなら……と、祈る中、弾丸が着弾しまずは1匹を落とし、そして次に2匹目へと当たり……いくらかの傷を与えたところで、ワイバーン達と俺達との距離がこれでもかと近づいていって……ゼロになる。
とっさに機体を傾け、翼を縦に構え、ワイバーンとワイバーンの間をすり抜けていく。
巨大なワイバーンの体、ワイバーンの驚愕の顔、銃弾を受けての苦悶の顔、周囲に響き渡るワイバーンの絶叫、同時に飛び散るワイバーン達の唾液。
そうした光景が一瞬で通り過ぎていき……数瞬後、ワイバーン達の間を上手くすり抜けられたと察した俺は、反転するために機首を上げて上昇し、限界まで上げた速度を落としていく。
そうやって反転し……ワイバーン達を再び視界に捉えると、ワイバーン達は俺達の方を見もせずに、アンドレアとジーノと、クレオの方へと向けて絶叫を上げていた。
左右に別れ挟み撃ちを狙うアンドレアとジーノ。
俺に続く形で正面からの突撃をしようとしているクレオ。
その3機の機体にどう対応して良いか分からず、混乱してしまっているといったような有様だ。
そうして3機から弾丸が放たれて……混乱したまま対処に遅れたワイバーン達は、その身体を銃弾に引き裂かれるのだった。
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