第46話 3匹のワイバーンと


 スコープを覗き込んだまま飛行艇を飛ばし、対空しながら地上へと狙いを定めている3匹のワイバーンを射程内に捉えて……軽くトリガーを引いて数発だけ弾を発射する。


 すると発射された弾が一匹の翼を掠めていって……そうやって未だにこちらに気付いていなかったワイバーン達を挑発したなら、機首を上げて高度を上げる。


『あれ!? 倒しちゃわないの!?

 今のわざと外してたよね!?』


「ああ、ここでは倒さない。こんな所でワイバーンを倒したら下に被害が出ちまうだろ」


 通信機越しのアリスの言葉にそう返した俺は……高度を上げながらワイバーン達の頭上を『こっちに来てみろ』と煽っているかのように飛び越えて、前方に見える戦うのにちょうど良さそうな平原へと向って飛んでいく。


『下って……あ、そっか、ここ牧場か。

 牛さんや牧夫さんの上にワイバーンが落ちちゃったら大変だもんね……地面の上の空だとそんなことも考えなきゃいけないんだね。

 ……ということはワイバーンは牛さんを狙ってたんだねぇ』


「流れ弾での誤射の可能性も無くは無いからな……ヤバい威力の武器を扱っている以上は、そういうことにも気をつける必要がある。

 幸いワイバーンはドラゴンと違って本能的というか、考える頭を持っていないからな……このまま平原まで、俺達の戦いやすい場所まで追いかけてきてくれるだろう」


 この作戦にはワイバーンに後ろを取られてしまうという致命的とも言える欠点があったが、この飛行艇が本気になればワイバーン達を引き剥がすのも、その攻撃を避けるのも余裕を持って行う事ができる、問題は無いだろう。


「アリス、後ろを見てあいつらの動きをしっかり見ておいてくれ。

 攻撃して来るだとか変な動きをしているとかあったら、すぐに教えてほしい」


『うん、分かった。

 ……今の所は問題なし、ワイバーン達は馬鹿みたいに私達を追いかけてきてるよ』


 そうやってワイバーン達を平原の上空まで誘導したなら、俺は飛行艇を一気に加速させ、加速しながらのバレルロールを行い、回避と上昇を同時に行って……上空で機体を切り返し、ワイバーンの背後を取ろうと試みる。


 そんな俺の行動に対してのワイバーン達の行動は様々だった。


 一匹は俺の真似をしようと回転しながら飛び上がり、一匹は混乱したままその場に滞空し、一匹は何を思ったのか凄まじい勢いで地上へと降下していく。


「なら動かないお前からだ」


 そんなワイバーン達を視界に捉えるなりそう言った俺は、滞空し続けている一匹へと狙いを定めて、トリガーをぐいと押し込む。


 直後凄まじい速度で弾丸が次々と発射され、ワイバーンの体を翼を頭をズタズタに引き裂いて……命を失ったワイバーンが地面へと落下していく。


「次は上に行ったお前だ!」


 そう言って俺は飛び上がった一匹を追いかける。


 地上に向かって飛ぶというのはどうにも地面に落ちようとしているようで気分が悪い。

 安全面という意味からも下よりも上からの方が良いなと飛び上がるワイバーンを追跡し……そうして射程内に捉えて、トリガーを押し込み……地面へと落下させる。


「残るは一匹だが……アリス、地面に向かったあいつはどうしてる?」


 機体を反転させるために、機首を上に向けて速度を落としながら俺がそう言うと、最後の一匹を見てくれていたらしいアリスがすぐに言葉を返してくれる。


『地面に着地したよ。

 着地しながら翼を振ってこちらを威嚇してる。

 ……地上で戦うつもりなのかな?』


「地上で戦うって……。

 空を飛べることが何よりの強みなのに、自分で強みを失って一体全体どうするつもりなんだ?

 というかいつまでも地上に居続けたら、地上の連中に攻撃されるんじゃないか?」


『あー……ワイバーン達、既に何匹か牛さんを食べちゃってたのかもね。

 多分農夫さんのと思われる車が、物凄い勢いでワイバーンに向かっていってる。

 ……ラゴス、どうする? このまま地上に任せる?』


「任せるってもな、地上からじゃ軍レベルの武器がないと、空に飛ばれたら勝ち目が薄くなるからなぁ……俺達がやるしかないだろう」


 そう言いながら機体を反転させた俺は、地上のワイバーンとアリスの報告にあった車の位置を把握し……ワイバーンと車の距離が思っていた以上に近いのを見て、トリガーから指を外す。


「くそっ、あんなに近いんじゃぁ誤射の可能性があるぞ!?

 車ってもただの農業用トラックだし、あれでどうするつもりなんだ!?」


 俺がそう叫んだ直後、車の窓から拳銃のものと思われる硝煙が上がる。

 ……よりにもよってトラックの連中は、拳銃でワイバーンと戦おうとしているようだ。


「じゃ、邪魔過ぎる!?

 拳銃でも倒せないことはないだろうが、俺達に任せてくれたらそれで良いだろうに!?」


 呆れているというか怒っているというかなんというか、言わずにはいられず、そんな声を上げた俺にアリスが声を返してくる。


『うーん、手塩にかけた牛さんを殺されたなら気持ちは分かるかも……って、あ、ワイバーンが炎弾吐き出した。

 え、あ、直撃!? トラックが吹っ飛んだ!?』


 横っ腹に炎弾を食らい、その衝撃で吹っ飛んだというか、横転し、勢いのままに地面を滑るトラック。


 ありゃぁ死んだかな、なんてことを思いながら、兎にも角にもワイバーンとトラックが離れてくれたとトリガーに指をかける。


 そうして地上のワイバーンへと狙いを定めた俺はトリガーを押し込み、トドメの銃弾を叩き込むのだった。




「いやー、助かったぜ!」


 戦闘を終え次第に港の方へと向かい、クレオ達と合流してから着水し、港に入ると、その顔と髪と、服を煤けさせた金髪だったらしい中年男がそんな声をかけてくる。


「……アンタもしかして、さっきのトラックに乗っていた?」


 俺がそう声を返すと、男は煤だらけの顔でニカッと笑いながら荒々しい声を張り上げる。


「おうよ! ワイバーンと戦う俺様の勇姿、見てくれたかよ!

 拳銃が効きさえすりゃぁ倒せたんだがなぁ、全く効かないから笑っちまったよ! あげくあの炎! ありゃぁ反則だろう!!」


 そう言ってガハハと笑う男を見て、俺は大きなため息を吐き出し、アリスとクレオは何が面白いのか大きな笑い声を上げるのだった。

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