第25話 金の使い途


 諸々の支払いを済ませ、あの二人にも約束した金を支払い、王都へ行って帰っての魔力充填代を払い、王都の空港に飛行艇を預けたりいくらかの買い物をしたりでいくらかの金を払い、祝勝会を終えて……今回の稼ぎのうち俺達の手元に残ったのは450万リブラ。


 アリスとの話し合いの結果、このうち150万リブラを運転資金として貯金し、100万リブラを生活費として貯金することにして……残りは200万リブラ。


 この200万リブラは何か、俺とアリスの為になることに使うことにしようと、そういうことになったのだが……俺もアリスも、この降って湧いた200万を、どう使ったら良いのか、この自由に使って良い金で何をしたら良いのか……中々決めることが出来ずにいた。


 最初に考えたのが今よりも広い、良い家に引っ越すということだが……今の家にこれといった不満がある訳でもなし、新しい家を建てるには200万では足りず、すでに島にある家の中で、ここに引っ越したいという場所も特にはなく、むしろ住み慣れたこの家を離れてしまうと色々な面で不便になる可能性まであり……あまり良い案とは言えなかった。

 

 次に考えたのが飛行艇の改造だが……これに関しても良い案とは言えなかった。


 今の時点で十分な性能があり、これといった不満点もないというのに、代替機の無い量産不可能なあの飛行艇に手を加えるというのはリスクが高すぎる。

 いざ失敗した時にどうするのか、それで仕事ができなくなったらどうするのか……色々な部品が手に入らない今の段階ですべきではないだろう。


 美味しいものを食べたり、良い服を買ったりなんかも考えたが……そうすると逆に単価が安すぎて200万もの大金を使い切るのはどうにも難しい。


 その程度の贅沢であれば生活費の範囲でどうとでもなることだし……使わずに貯金しておくのも手ではあったのだが……折角の稼ぎだ、ある程度使っておきたい気持ちもある。


 グレアスからも出来るだけ金を使って島の経済を回してくれとお願いされているからなぁ……出来るだけ使っていきたいとは思っているんだが……。


 一体どうしたら良いのだろうかと、そんなことを考えながら……港近くの店が並ぶ一帯を一人、目的も無くふらつく。


 時刻は昼過ぎ、アリスはまだ学校で勉強中。

 家事は終わった、特に用事もない。そんなこんなで暇となってしまった時間を、こんな風に散歩で消化するのが最近の俺の生活スタイルだ。


 大通りから店を眺めながら散歩し、ガラス窓から店内の商品を眺めて……そうやっているうちに金の使い途を思いつくのではないかという、そんな浅はかな考えがあっての行動だったのだが……そもそも金持ちの少ないこの島で、高い買い物をしようってのがどだい無理な話なんだよなぁ。


 家か車か船か飛行艇か……この島で買える高い買い物と言えばその程度のものだ。

 それですら注文してからしばらくの間、材料やらそれ自体やらが本土から輸送されてくるまでは待っていなければならないし……王都でもっと、色々と見てくるべきだったなぁと今更ながらに思ってしまう。


 ……と、そんなことを考えていると、大通りの向こうから何処かで見た男が笑顔でこちらに駆けてくる。


「アニキ! こんな所で会うなんて奇遇だなぁ! 今日は買い物でこっちに?」


 駆け寄ってきながらそんな声を上げたのは、ガルグイユとやりあった時に手を貸してくれた細身の方、アンドレアだった。


「……アニキはやめろ、アニキは。

 ラゴスで良い」


「いやぁ、アニキのおかげであんなに稼がせてもらった上に、勲章まで貰って新聞にも載ったとなれば、もうアニキと呼ぶしかないってもんでしょ!

 おかげで実家のかーちゃんもとーちゃんも大喜びしちゃって! ほんの一部だけど金を送ってやったら、馬鹿みたいにながーい電報が送られてきちゃってもう、電報局の職員から文句を言われたくらいで!

 ……で、アニキはどうしてここに? アリスの姐さんに何か贈り物でも?」


「……いや、まぁ、そうだな。

 金に余裕があるんだから、店を見てみるのも良いかと思ってな。

 だがまぁ……いざ使おうと思っても、中々これってもんがなくてな」


「はー、なるほどなるほど。

 ジーノなんかはアニキから貰った金、あっという間に全部使っちゃってたけど、アニキは慎重なんだなぁ」


「……全部? 60万リブラをか?

 よくもまぁこの短期間で使い切ったな」


「ジーノはほら、家族がいるんで。嫁さんと娘さんが一人と、犬が一匹。

 で、今まで欲しくても買えなかった家具とか、服とか、娘さんの勉強道具とかを一気に買ったら、もう60万でも一瞬だったとか。

 で、まぁ、オレも負けてられないなって、前々から良いなって思ってた人がいるんで、その人と一緒に美味い飯を食いにいくのも良いかなって考えて、それで良い店無いかなって探してたとこで……何処か良いところ知りません?」


「ああ、それなら―――」


 と、俺はそう言って、祝勝会を行った件のレストランのことをアンドレアに教える。

 あそこであれば何を食べても間違いはないし、女性とのデートにも相応しい料理を出してくれることだろう。


 少々値が張る店ではあるが、それも今のアンドレアの懐具合なら問題は無いだろう。


「おお、良さそうな店を!

 ありがとうございます! 早速下見いってきまっす!!」


 と、そう言ってアンドレはレストランの方へと駆けていって……その背中を見送った俺は、思いつくことがあってある店へと足を向ける。


 レストランで美味い飯を食うってのは祝勝会で散々やったからな、こういう趣向も悪くないだろうと俺は、その店の中へと足を踏み入れるのだった。

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