第15話 国からの依頼
市場の責任者が報せてくれた朝市の結果は上々で、市場利用料は一割ということになって……整備費用をケチらずに払い、溜まっていた諸々の支払いも済ませて、それでも100万と少しの金が俺達の手元に残ることになった。
とはいえ贅沢はしていられない、毎回毎回仕事が上手くいくとは限らない訳で、それでも整備費用もかかる訳で……そういった空振りの仕事が何度か続けば100万って大金もあっという間に無くなってしまう。
あくまでこの金は今後の仕事の為の、運転資金とするべきだろう。
という訳で俺とアリスの生活は以前の水準のままで……俺が家事をするようになったおかげで、アリスにちょっとした余裕が生まれた程度の変化しかなかった。
それでもアリスはその時間で友達と遊んだり、いろいろな勉強をしたり出来たし、俺は俺で家事の合間に飛行艇の操縦技術を本やらから学んだり、グレアスから借りた資料で他の賞金稼ぎ達がどうしているだとか、仕事に関するあれこれを学ぶことが出来た。
それは決して無意味ではない、有意義な時間だと言えて……そんなゆったりとした時間を過ごし……そうして三日後の夕刻。
入念な整備が終わり、マナストーンへの魔力の充填も終わった頃を見計らってグレアスがまさかの大仕事を持ってきたのだった。
「ガルグイユ……?
それって確かドラゴンだろ? 俺達みたいな新人に持ってくる仕事か?」
以前よりも片付いて綺麗になったリビングのテーブルで、グレアスと向かい合う形で座った俺がそう言うと……グレアスは紙封筒の中から資料を取り出しながら渋い表情を見せてくる。
「俺としてもお前達に押し付けたくはなかったんだがなぁ……お上からのご命令ってやつだな。
陛下の温情であの飛行艇を手にしたのだから、そのくらいは役に立って見せろと、そういうことらしい。
軍の連中が討伐に失敗しまくってるのもあって、どうにか国の威信を保ちたいっていう思惑があるんだろうな。
お前が討伐出来たなら、国の飛行艇で国が出した依頼で倒せたんだから感謝しろ。
お前が失敗したなら、未知の技術が使われた最新機でも勝てなかったんだから軍は悪くない文句言うな。
と、そんなことを国民に向けて言うつもりなんだろうな……。
こんな話、冗談じゃないと俺の方でどうにか断れないかと粘ったんだがなぁ……俺も国に雇われてる身でな、これ以上の無理はできなさそうだ」
「いやいや、無理なんかする必要はないさ。
俺も賞金稼ぎになった以上は多少のことは覚悟しているし……今まで色々と気を使って貰ったんだ、アンタの面子を立てる為にそのくらいのことはやらせてもらうさ。
……だがまぁ、あれだぞ、タダ働きってのは勘弁だぞ?」
「そいつに関しては安心しろ。
賞金稼ぎって国にとっても大事なシステムを根底から破壊するような真似は、いくらお上の無茶でもやりゃぁしねぇさ。
詳しくはこの資料に書いてあるが……弾代、燃料代は国持ち、討伐報酬は300万と素材売上の2割。
それとまぁ……カバリエの勲章が貰えるそうだ」
「……カバ、何? 何の勲章だって?」
「カバリエ、古い言葉で騎兵って意味になるな。
今時分に騎兵もクソもないだろうが……まぁ、お前達の身分を保証するような代物だと思えば良い。
この勲章があるからって金が貰えたり、税金が免除されたりする訳じゃねぇが、お上に尽くした立派な国民として歴史に名前が残るようになって国が後ろ盾ってことになって……ま、誰もお前を馬鹿に出来なくなるっつう、そういうもんだ。
仮にこれが貰えたなら、仕事の面でも生活の面でも色々楽が出来るっつうか、面倒な制約無しに自由に行動が出来るようになるだろうな。
出生があやふやなお前やアリスにとっては喉から手が出る程欲しいもんだろうと、お上はそう考えたようだな」
そう言ってグレアスは、封筒から取り出した資料を俺の方へと差し出してくる。
それには今グレアスが説明してくれたばかりの報酬のことが細かく書いてあり……そして仕事のターゲットであるガルグイユの情報が記されている。
「5mを超える大型のドラゴンで……。
とんでもねぇ旋回能力で空を舞い飛んで、四足で地面を駆けることも出来て、高温の炎を吐き出してくる……。
そして何よりこいつの最大の特徴は、その身体が石で出来ている……か。
銃弾でダメージを与えることは出来るが、貫通はまず無理で、10発や20発当てたところでお話にならねぇと……。
で、こいつを倒したかったら、高速で飛び回りながら放たれる攻撃全てを回避し続けて、良い感じに隙を狙って搭載弾丸全てを撃ち込んでください。重い体のせいか恐らくスタミナはそんなでもないので、きっとなんとかなります……か。
……なぁ、グレアス、この資料を作った馬鹿を殴り飛ばして良いか?」
資料を読み進めながら俺がそう言うと、グレアスは「がっはっは」と笑ってから、
「そうしたけりゃぁまずはカバリエの勲章を貰うこったな」
と、そう言ってくる。
その答えに苦い顔をしながらどうしたものかと悩んでいると……いつの間にか学校から帰って来たらしいアリスが、テーブルの下から顔をにゅっと突き出し、なんとも器用に俺の膝の上へと座り込んで、俺の手の中にある資料の文字をさささっと読み上げて、そうしてから底抜けに明るい、元気な声を上げる。
「300万! 更に売上次第で追加まで!!
ラゴス、ラゴス! 受けようよ、この仕事!
300万もあったらうんと余裕が出来るし、飛行艇の改造も出来るし、お家だって新しく出来るよ!
良い家に住んで、良いベッドで眠って、美味しいご飯をいっぱい食べて……毎日がきっと楽しくなるよ!」
そんなアリスの声を受けて、俺はこくりと頷く。
元々グレアスの顔を立てる為にと受ける気持ちはあったんだ、アリスが嫌でないのなら受けるべきだろう。
最悪相手を倒せないのだとしても、動きが鈍いっていうなら、逃げ出すことも出来るだろうし……グレアスの話によると失敗する事が前提というか、失敗したからどうこう言われる話でもないようだ。
であればと俺は、グレアスに向かって、
「この仕事受けた」
との一言を口にするのだった。
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