第6話 遺跡の奥底
『ラゴスがお仕事を頑張っている間、私は皆と遊んでいた訳だけど、あの遺跡で遊ぶことも何度かあって、その中で私、気になる仕掛けを見つけたの。
なんでもないただの床板のように見えて、他とは微妙に作りが違うっていうか、何か引っ掛ける場所があるっていうか……。
で、そこのおっきな床板を、こう、倉庫にあったラゴスの工具でもってぐいっとやったらね、見事に動いてくれて、そうしてその下に隠れていた階段を見つけたという訳なの』
とのアリスの言葉を受けて、翌日。
たまたま休日だということもあって俺はアリスを連れて、件の遺跡へとやってきていた。
所詮は子供の与太話と思ってそれで話を終わりにしても良かったのだが……一度弾んでしまった胸は、現場を確認してすっきりしないことには落ち着いてくれないというか、一度見てしまった夢は決着をつけないと消えてくれないというか……そんな、子供じみたというか、他人に聞かれたら馬鹿にされるだろう理由で来てみた訳だが……。
「お、おお……本当に階段が出てきたな。
見た目の割に軽いというか薄いというか……よくもまぁこの薄さで今まで割れずに残ってたもんだ。
それにこれ、踏んだりしたらその感触やら音やらで気付いてもおかしくないぞ?
この島に人が住み始めて、確か百年と少しだったか……その間、誰もこの床板を踏まなかった……のか?」
バールでもって実際にその床板を動かしてみると、その下にはそれなりに立派な、相応の労力をかけて作ったであろう石階段の姿があり……それを見て俺は、そんなことを言いながらごくりと喉を鳴らす。
「中は真っ暗だけど、ランタンがあれば問題無し!
これといった仕掛けも、崩れているような場所もなく進めるから、さっさといきましょう!
あの飛行艇が誰かに見つかっちゃうその前に!」
階段の奥をじぃっと、バールを構えながら覗き込んでいた俺に、そう言ってきたアリスは、手際よく持ってきたランタンに火を灯し、階段の奥へと、その向こうの暗闇へとタタタッ駆けていってしまう。
既に何度か中に入ったことがあるとは言え、いつ崩落してもおかしくない暗闇の中を駆ける奴があるか! と、そんなことを思いながら俺は慌ててアリスの後を追いかける。
アリスを追いかけながら石階段を降りて降りて、ボロボロの石畳を踏みつけていって。
キノコが群生する一帯を過ぎたなら、何処かから吹いてくる風の音が猫の鳴き声のように響く道を真っ直ぐに進む。
一体どれくらい下ったのか、どれくらい歩いたのか。
真っ暗闇の中で、距離感も方向感覚も何もかもを失った頃……嗅ぎなれた磯の匂いが何処からか漂ってきて、同時に何処からか陽の光がうっすらと、差し込んでくるのが見える。
進む道の奥から、天井や壁の隙間から降り注ぐその光を見て、一体今自分は何処にいて、この遺跡は一体どんな作りになっているのだと困惑していると……その光に照らされた壁画が視界に入り込む。
その壁画は……果たして絵と言って良いのやら、よく分からないものだった。
四角いカードのような枠の中に、規則的な模様が描かれていて……これは菱形で、これはハートマーク……か?
そのカードが何枚も何枚も描かれていて……いや、これは刻み込まれているのか?
どうにもこうにも理解しがたい、そんな壁画を眺めながら道を進んでいくと……これまでの道のりとは一転して大きく開けた、遺跡とは思えない程に綺麗な場所へとたどり着く。
海の水が流れ込んできて、その水に陽の光が反射して、広い空間の天井や壁をキラキラと輝かせている。
そしてその天井と壁は、遺跡とは思えない程に綺麗に磨かれて、傷一つ無い程に整えられていて……まるで俺が働いている整備工場のような雰囲気をたたえていた。
よくよく見てみれば海の水が流れ込んでいる一帯も、まるで港の波止場のように整備されていて……船着き場のような作りにもなっている部分がある。
あれが防波ブロックで、あれが係船柱で……いや、船というよりも飛空艇の為の波止場……か?
何処かの岩壁をくり抜いて、洞窟のように仕立ててから、この波止場を整備したのだろうか?
仮にそうだとしてなんだってまた遺跡の中を通り過ぎた先にあるんだ?
この感じ……どう考えても遺跡と同じ文明が作ったものではないと思うのだが……洞窟波止場と遺跡がたまたま繋がってしまった……のか?
と、俺がそんなことを考えている中、アリスは波止場の向こう……実在の港でたとえるなら港湾管理事務所があるだろう辺りへと駆けていって、そこにあるベニヤ板を手に取っては放り投げ、手にとっては放り投げとし始める。
それを見て一体何をやっているのだろうか? と首を傾げた俺は、そもそもなんでこんなところにベニヤ板なんかがあるんだということに思い至る。
その何枚ものベニヤ板は、まるで何かを覆い隠すかのようにして置かれていて……そこでようやく俺は、それらはアリスが、件の飛行艇を隠す為に持ち込んだ物であるということに気がつく。
そうやって隠しておけば誰かに盗られる心配は無いということだろうか……。
こんな所にいきなりベニヤ板があればそれだけで調べるに値するほどに怪しいし、そもそもそれらのベニヤ板をここまで持ってくるという、その行動自体を誰かに見られていたらどうするつもりだったのか。
驚くほどに賢くて気が利いて、大人顔負けの一面を見せるアリスだが、そうは言ってもまだ子供……10歳の女の子ということなのだろう。
そうして小さく笑った俺は、アリスの下へと駆け寄って……ベニヤ板と、その下に隠れていた雨よけシートをどかす作業を手伝う。
ちょうど飛行艇のような大きさの、飛行艇のような形をした何かの上に置かれたベニヤ板をどけて、雨よけシートを引っ掴んで……その下にあるものを傷つけないよう慎重に、そっとシートをどかしていく。
するとシートの下からは、青く輝く機体を持つ、一機の飛行艇が姿を現し、それを見た俺は一言。
「た、単葉機かよ」
と、そんな言葉を漏らすのだった。
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