茶器紛失事件 其の八

「兄に会いたいです!何処にいるんでしょうか?」

 

茶器の付喪神は、キラキラした目を唯月と万葉に向けている。唯月は石碑の方へ向き、茶碗の付喪神を呼んだ。


「茶碗くん、聞こえてるかな?茶器ちゃんが会いたいって言うてるでー!出て来てくれへん?」

 

「話は聞いておりました、妹に説明して頂き有難う御座います。」


 次元の裂け目を通り、茶碗の付喪神が出て来た。


「作られて以来か?元気にしていたか?お互いに付喪神になってしまったな。」

 

 唯月と万葉に一礼した後、茶器の付喪神に優しく微笑んだ。


「兄様なのですか?お久しゅうございます。お顔が祐光先生に瓜二つですね。」

 

 茶器の付喪神は少し驚いたが、すぐに笑顔で挨拶した。


「まぁ、そうだな。多分、私のことを先生が強く念じて作ったからではないか?どのような想いかは分からないが、分身が出来るくらいの想いだったのだろう。」


「私が祐光先生に逢いたい一心で妖怪になったように、ですね。」

 

ポツリと呟いた彼女は俯き、更に続ける。


「私は今、狐のご夫婦に可愛がられています。妖怪に成ってから兄様とは思わず、理想の人に出会ったと勘違いをして家を出てしまいました。お婆様やお爺様に心配をかけているのです。なので、私は帰らなければなりません。…兄様に一目でも会えて良かったです。」


 茶器の付喪神は涙目になりながら、茶碗の付喪神に別れを告げる。


 「それでは、まるで今生の別れのようではないか。」

 

 悲しそうな妹に対して、茶碗の付喪神は平然としている。


 「だって、帰ってしまうと次はいつ会えるのか分からないではないですかぁ…」

 

 妹が別れに耐えているのにも関わらず、兄が悲しむ様子の無いことに彼女は泣いてしまった。


 「葛の葉様は、こう仰っていらした。」



 私は葛の葉様の御子息である安倍晴明様より贈られたものである。息子よりものを贈られるのは滅多に無いこと、何か理由があってのものであろう。なれば、理由とは兄妹が出会うことだと私は考える、茶碗の付喪神は茶器の付喪神と一緒に宗旦夫妻の元へ参れ。我が式神としての命令である。



 「私は茶碗では無く、式神として葛の葉様において頂くことになった。お前といつも一緒にいられるということだよ。」


 茶器の付喪神は話を聞いていくうちに泣き顔から笑顔に変わって、兄の付喪神に抱きつく。


 「に、兄様ぁ。うわぁーん!」



 唯月はウンウンと頷き、二人の再会を喜ぶ。


 「そういう理由なら、宗旦さんに話つけてあげるわ。兄妹は一緒に仲良くした方がええ!なっ、茶碗くん!」


 兄である茶碗の付喪神は唯月と万葉に礼を言う。


 「有難う御座います。式神として働くにあたり、葛の葉様が私の名前をつけて下さいました。これからは茶碗くんではなく洛彩らくさいと呼んで下さい。」


 「洛彩、良い名前やね。じゃあ宗旦神社に帰ろ!」


 万葉も葛の葉の粋な計らいを共に喜ぶ。その後、唯月に車を運転して帰るように指示した。彼は、普通真夜中に運転させますぅー?鬼畜の所業!!等と悪態を付きながら駐車場へ走っていった。

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