茶器紛失事件 其の六


 茶碗の付喪神は、ぽつりぽつりと話し始めた。


 「あの茶器は、僕と同じ窯元に作られたものです。妹っていう呼び方が良いのかわかりませんが、とにかく同じ時期に同じ窯元で僕らは生まれました。妹は毎夜、理想の人に逢いたいと泣いていると葛の葉様は仰っていましたよね?僕の事だと思うのですが、彼女は僕が兄であるというのを知らないのだと思います。」

 

 そう話して、唯月と万葉を見た。



 「話の途中で申し訳ないのですが、姿見はないでしょうか?自分がどうなったか見たいのです。気になってしまって…」

 

 茶碗の付喪神はそわそわしている。やはり、自分の姿がどのように変化したのか気になるのであろう。葛の葉は付喪神に、男前に化けてると思うよ、と和にこやかに鏡を渡した。彼女から受け取った鏡を覗くや否や、彼は愕然とした。


 「祐光先生?!僕は先生の顔になったのか。」


 「大丈夫か?祐光先生って?」

 

 唯月は心配そうに付喪神に尋ねた。少し沈黙の後、付喪神は答える。


 「僕たちを作ってくれた窯元です。僕たちが生まれた時代に若手の陶芸家として活躍していました。妹の茶器が理想の人と言ったのは窯元に似ていたからでしょうね。この顔を見る限りは…」


 「何となくやけど、掴めて来たぞ!茶器ちゃんは理想の人が父親って言っちゃうファザコンってことやな!!」

 

 唯月は付喪神を和ませようと戯けた。万葉に巫山戯ている場合かと怒られたが、何か掴めたんはほんまやねん!と焦って反論する。


 「茶碗くんは俺らの話聞こえてて、自分が付喪神になるんやと自覚して妖怪になったやろ?茶器ちゃんは、理想の人に逢いたい一心で妖怪化したから、何も分からんねん。自分が茶器やって言うのも分からんはずやで。理想の人に逢うっていう目的しか覚えてへん思うよ。今は幽霊と同じ状態やから、成仏出来てしまうんや。」


 「じゃあ、茶器を茶碗に会わせたらあかんの?」


 唯月の話を聞いて疑問に思った葛の葉が質問をする。


 「そこなんですよ、ただ普通に会わせるだけやと目的達成で成仏されちゃうかもしれないでしょ?成仏されたら宗旦さんに茶器渡せないんですよねぇ。やから、自分は妖怪であると自覚してもらわんとマジだる案件って状況な訳です。」

 

 唯月は髪をくるくると指で回し始め、加えて説明する。


 「作戦としては、俺と万葉は茶器ちゃんに付喪神に成ったこと、自分が道具であること、お辰たつさんが待っていることを説明します。で、最後に茶碗くんは兄ですよってのも話そか。後は、茶碗くんに会ってもよし会わなくてもよしです。こんだけ説明したら付喪神として自覚するでしょー!」 


 唯月は、俺の推理力マジハンパねぇと嬉しそうにしている。其の様子を無視した万葉は、葛の葉に今夜中に唯月と共に茶器に話をすると説明したのであった。

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