茶器紛失事件 其の四

 信太森葛葉稲荷神社に着いた唯月と万葉。葛の葉を探していると、境内にある石碑の所に白い狐がいた。



「私のこと視えてるピンクの服のけったいな男の子と可愛らしい女の子…唯月くんと万葉ちゃんやね? うちが葛の葉です、よろしゅうに。化けるし、ちょっと待っとってくれへん?」



 二人が彼女に挨拶をした後、白狐は2人の方を見て石碑の裏へ行ってしまった。葛の葉が裏へ回ったのを確認して、唯月は小声で万葉に尋ねた。



「けったいって何?」


「大阪弁で変わってるとか奇妙なって意味。変な格好してるからやろ。」


「宗旦さん、俺のことそんな風に説明したん?!」



 俺めっちゃイケてるやん!!と叫ぶ唯月に知らんわ。と、万葉が突っ込みを入れて待っていた。すると、石碑の後ろから白髪を綺麗に纏めた狐目の可愛らしいお婆さんが出てきた。

 

「ごめんねぇ、暑いからワンピースにさしてもろたよ。さぁ、家上がって頂戴。」


 そう話し、葛の葉は石碑の横の空間に手を伸ばした。石碑は狐の碑と呼ばれ、御影石に「恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉 」の和歌と狐の姿に戻った葛の葉が彫られているものである。そこに先程も宗旦神社で見た光景、次元の裂け目が現れた。



「お邪魔しまーす!」

 

 唯月と万葉が裂け目の中へ入ると、大きめの洋間へ繋がっていた。そこには安倍晴明グッズが所狭しと飾り付けされている。


 二人がグッズの量の多さに驚いていると、背後から裂け目を通って葛の葉が入ってきた。

 

「うちの息子やねん、ほんま有名になって偉えらなってねぇ。小さい頃に離れたからか、おっさんになっても可愛くてしゃあないわ。それに孝行息子やしね。ふふふ。」



 息子自慢を始めた葛の葉、実の母親でありながら熱狂的な安倍晴明ファンでもあるようだ。



「まぁ、大事な大事な息子の話したら長くなるから置いといて。宗旦さんとこの茶器がなくなったみたいやね。その話をしたらええんかな?」

  

 そうです、お願いします。と言う2人に葛の葉はお茶を出しながら話し始めた。



「その日は朝から息子の所へ行ってて、お土産に茶碗を貰もろたんよ。黒字に金粉の京焼でね、そういえば宗旦さんのとこで茶器と茶碗がよう似てるって話したわ。後、大正時代のものやっていうのも同じやねって。で、茶器と茶碗の話で盛り上がったから、お辰たつさんと、此の茶器と茶碗でお茶点てよってなってご馳走してもろて帰ってきてん。」



「似た見た目に同じ年代の茶器と茶碗……」



 万葉はメモを取りながら、呟いた。


「茶器と茶碗の話ってそれだけですか?他に何か話したとかは?」


 もう少しでヒントになりそうな話だと唯月は感じた。万葉も同じ事を考えたのであろう。少しでも何か掴めれば、解決出来る糸口を見つけられそうだと思った。



「宗旦さんが、大正時代にお抹茶好きのお辰さんへ送った品物や言うてたなぁ。で、お琴が趣味やったお辰さんが旦那さん同様に茶道始めた切っ掛けになった大事な物らしいわ。お辰さん、嬉しゅうて毎日その茶器を見るだけで幸せになる言うてはったわ。」

 

 そう話す葛の葉は、にこやかにしていた。今風に言うとラブラブって言うんかねぇ。と、幸せそうだ。ただの惚気話かと唯月と万葉は和む。ただね、と続きを話し始めた葛の葉の顔が少し曇り、何か困りごとがあるように見える。



「帰って来てから女の子が毎晩石碑の前で泣くのよ。やっと、理想の人に逢えたのに離れたくない。あの人に逢いたいって。…まぁ、人間じゃないのは分かるんやけど。あの人って息子の事かなぁって。」


「安倍晴明さん?じゃあ女の子って式神しきがみの女の子?」

 

 唯月は安倍晴明が式神を使役していたという話を思い出した。


「いや、晴明の式神では無いわ。あの子の式神は入れるようにしてるもの。」

 

 直ぐさま違うと否定する葛の葉は、分からんから困ってるんよねぇ。と、唯月を見た。


「黒髪に金の簪かんざしをさしてる色白のお嬢さんでね、紅色に鶴の模様の着物を着てるのよ。毎日毎晩泣いてて可哀想。何とかしてあげたいけど私じゃ力になれんしねぇ。」

 

 彼女はそこまで言うと、ハッとしたように彼らの顔を見た。



「与恵さんとこの萬屋さん、うちら人外のモノには有名なお店の跡継ぎの2人や。その力を見込んで茶器探しのついででええからこの件も解決してくれへんやろか?」

 

 葛の葉は真剣な眼差しで2人を見る。



「分かりました、茶器の件でお世話になったから受けましょう。頂く報酬については店主の与恵から話をさせて頂きます。」


 万葉は契約書を取り出しながら、葛の葉に説明した。それで結構、頼みます。と、葛の葉と万葉が契約書を取り交わす手続きをしていると唯月は大きな声を出した。


 黙って彼女の話を聞き、宗旦夫妻の話と合わせ考えていた唯月は何か思いついたようだ。やはり、先程の勘は当たっていた。自分の推理は間違っていないというのを唯月に言わせるとこうなる。



「これは突破ファイル、ポンポンポォーン!!テンアゲー!!これはいけるんじゃナイトプール!」



 万葉と葛の葉は日本語を話しているのかすら怪しい唯月のことをそっと放置しながら、契約手続きを再開するのであった。

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