茶器紛失事件 其の三
宗旦神社より帰宅した唯月と万葉は、大阪の信太森葛ノ葉稲荷神社へ行く準備をしていた。
そこに、大滝家の長男である久護がやってきた。彼は唯月と万葉の兄である。
「あれ?二人でどっか行くん?」
仕事道具である刷毛を取りに来たようで、道具を用意しながら彼らに話しかけた。
「大阪に行くねん。萬屋の仕事でな、おかんから任されてん。」
「唯月だけやと心配やしサポートで私も行くねん!お兄ちゃん、お母さんとお父さんは?」
万葉は、準備しつつ久護の質問に答える。
「千紗に今日は帰らんから俺と七愛の面倒頼んで行きよったわ。お泊まりデートっちゅうやつやな。」
千紗とは久護の妻で、七愛は娘である。大滝家には家業が二つある。
父方が代々従事してきた仕事を表家業として『京友禅久滝』、母方の先祖代々の仕事を裏家業『萬屋』と呼んでいる。
表家業を継ぐのは父・久三似で霊感0である久護、裏家業は母・与恵譲りの霊感が強い唯月と万葉となっている。
「マジか!俺ら晩御飯どうすんねん!」
唯月は驚いて手を止め、兄の顔を見た。
「もう大学の4回生やろうが、しっかりせぇ。万葉なんか言わんでもちゃんとしてるんやで?」
久護は呆れながら唯月の方を向き、諭すように話した。
「唯月と一緒にせんといて!私チャラないし、同じベクトルで話さんといてよ!!」
「俺、すっげぇ言われようやん。マジTBS!!」
「何それ?」
兄や姉としてこんな弟で良いのだろうか?双子とは言え末っ子である唯月を甘やかし過ぎてしまったのだろうか。久護と万葉は唯月の言葉遣いに呆然とした。
「テンションバリ下がるでTBS。」
「お兄ちゃん、私ら大阪行くし外でご飯食べて来るわ。唯月の奢りで。」
「そうしぃ、あいつに奢らしたらええわ。ほな、気を付けて行っといでな。家に帰られへん時は連絡入れや。」
唯月の冗談はさておき。と、万葉に話しながら久護は準備した道具を持って部屋から出て行った。
「唯月、あんたが運転して大阪まで連れてってよ。」
「バリおこやん。飯奢らされるし運転手とかさげぽよ。」
「やかましわ!あんたと喋ってたらこっちがさげぽよやわ!早よ行くで!!」
二人は軽く姉弟喧嘩をしながら、家を出て車に乗り込んだ。大阪へ行くために京都南インターから高速道路へ乗り換えた頃、唯月は宗旦そうたんとお辰たつの話を思い出していた。
箱の中から茶器が消える。
何者かに盗まれたのではないか?否、狐の住む空間に入る事が出来るのは住処にしている狐と彼らが迎え入れた者のみ。葛の葉が盗んだのだろうか?これも否。彼女が帰った後にお辰が箱にしまっている。どういう事であろうか、考えても答えが出ない。
「唯月、消えるって言うのは消失したってことなんかなぁ。」
万葉は宗旦とお辰の話を纏めたメモを見ながら呟いた。彼女も唯月と同じ事を考えていたようだ。
「此の世から存在が消えたってこと?それは無いんちゃうかな。それやったら、箱ごと無くなるやろ。箱も茶器とセットなんやからって、俺は思ってんやけど。」
「そらそうか。んー…ヒントが無さ過ぎる。」
眉間を人差し指で押さえ俯く万葉。彼女の小さい頃からの癖で、物事を深く考え込む時にする仕草である。
「葛の葉さんに話聞いたらヒントなり何なり分かるんちゃう?今は大阪行くしかあらへん!その後は大阪でDN☆」
「…一応聞いたるわ、何の略や?」
「泥酔ナイトね!心斎橋で遊ぶんやぁー!!」
万葉を心配して戯けているのか、本気で言っているのか分からない唯月の態度に万葉は更に考え込んだ。
「私を家まで送ってからにしてや、そのDNとやらは。後、もっと言うと茶器見つけて宗旦さんらに渡してからな。ほな、考えても埒があかんので私は寝る、着いたら起こして。安全運転でよろしく。」
唯月に限りなく命令に近いお願いをして彼女は眠りにつく。ほんまに万葉はきっつい姉やで。と小声で悪態を付き唯月は、運転に集中した。
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