第8話 俺に出来ること
「俺に出来ることってない……?」
そう問いかけた俺に久保田君は驚いたような、慌てたような表情をした。
「君には十二分すぎるほど、良くしてもらっているよ」
そっか、と俺は呟いた。
なら、久保田君は住むところが無くて困っていただけの宇宙人なのか、と結論づけようとしたところ、「でも……」と久保田君が口を開いた。
「僕の惑星では全個体にチップが内蔵されているんだ。
もし、惑星の法律に違反したらそいつは消されなくちゃならない」
「へっ?」
あまりの話の展開に俺は変に高い声が出た。
「く、久保田君は違反してんの?」
「思いっきり、今、しているよ。
惑星外の人間に自分の惑星のことを話しているんだから」
俺は焦った。数々の海外映画みたいに宇宙船が地球を襲ってくるところを想像したからだ。
それを言うと久保田君は笑った。
「大丈夫だよ。というか、僕の星では惑星不可侵条約って言って、
他の星の国家には干渉してはならないって法律で定められているんだ」
つまり……?と俺はこわごわと聞いた。
「僕が消えればいいだけ」
あっさりと久保田君は言った。部屋が急にしんとなった。
「消えちゃ駄目だよ」
俺は必死に訴える。久保田君は細い目で遠くを見ている。
そうだったんだ。これだったんだ。
俺の頭の中でこだまするように鳴っていた警鐘は。
久保田君の謎を暴いてはならない。
それは、何故か久保田君の存在が消えるような気がしていたから。
俺の唯一の友達である久保田君。
「なんとかする!そうだ、タイムリープを使って、
俺の記憶を戻せば!」
俺は久保田君の手を引くが、久保田君は静かに首を横に振った。
「……超能力にも限界があるんだ。僕の生体は前のタイムリープで
だいぶ消耗している。それに、僕に埋め込まれたマイクロチップには
もう僕の違反が記録されていて、消滅するまで時間がない……」
久保田君は目を静かに閉じた。
「もって、夜明け前まで……かな」
俺は泣きそうになった。
せっかく、友達が出来たのに。
そいつが宇宙人で、それを暴いてしまうと消えてしまうなんて。
久保田君は冷蔵庫から冷えたプリンを二つ取り出した。
一つは自分に、一つは俺に差し出してくる。
「僕はこの惑星にきて良かった。
君に声をかけてもらえて、君に会えて嬉しかった。
こういうとき、人は乾杯するんだろう?」
カチン、と冷たいアルミカップを合わせて久保田君はプリンを食べ始めた。
俺はうなだれたまま、久保田君が美味しそうにプリンを食べるのをただ見つめていた。
「僕の惑星には、こんな美味しいものなんてなくてさ。
親は死んじゃうし、一番大切だった妹も死んじゃうし。
ほんとにこんな美味しいもの食べさせてあげたかったよなぁ」
そう言って久保田君はずずっと鼻をすすった。
泣いている。普段は感情の読み取りづらい久保田君が泣くところを初めてみた。
俺は渡されたプリンを食べる気力が湧かなかった。
ただ、久保田君にタオルを渡して夜明けを待つことしか、出来なかった。
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