第6話 久保田君の秘密
「久保田君、俺には疑問がある」
「そうでしょうね……」
うつむき加減の久保田君はシリアスモードに入っているが、お菓子を作ったままのエプロン姿ではそうは見えない。まぁ、エプロンを脱いでも、いつものカピバラに似た容姿ともじゃもじゃ頭ではそうシリアスには見えないのだが。
「僕は……」
泡立て器を持ったままの久保田君が意を決したように口を開く。
「宇宙人なんです」
「ほう」
そうきたか。俺は久保田君の発言をただ冷静に聞いていた。
嘘をつけるタイプではない。というか、久保田君に「嘘」という概念が通じるかわからない。その感覚こそがまさに久保田君から宇宙人だと聞いても俺が驚かない原因か。
「……驚かないんですね」
久保田君はびっくりよりもちょっとがっかりした様子だった。
この様子を見る限り、久保田君にとって「宇宙人である」という事実は相当な切り札だったらしい。
「いや、久保田君、嘘はつかないし。俺、宇宙人がいてもいいと思うから」
俺は決してオカルトにかぶれているわけではないが、この広い宇宙で生命体がいないと全否定することは出来ないと思っている。だって、俺が人間として存在しているわけだし。
「ありがとうございます。あなたのようなあたたかい人間と良い関係が築けたのは、
私にとって喜びでした」
そこで、少し久保田君の目が泳いだ。
きっと、時を戻した瞬間の俺の激怒を思い出しているのだろう。
「喜びでした」と過去形になっているのも気になる。
俺は正直な気持ちを打ち明けた。
「俺は、高校生の時、目つきの悪さだけで不良に目をつけられて散々いじめられたんだ。
それで、なんか人間不信になって大学でも軽い付き合いしかしなかった。
久保田君と馬が合ったのは、そうだ、久保田君が宇宙人だったからだよ。
プリンのことであんな激怒して悪かった」
久保田君は俺の言葉にいちいち頷いて、そして笑顔になった。
「プリン、勝手に食べてしまってすみません。
時間を勝手に戻してしまってすみません。
私は地球に来て、とても貧しかった。でも、学びたかった。
大学というところが地球で最適に学べると聞いて。
でも、それを優先すると友人はなかなか作れなくて」
久保田君は不器用な性格だ。俺とよく似ている。
勉強を優先していなかったとしてもあの大学でまともに友人が出来ただろうか。
「俺も地球人という宇宙人だよ。同じじゃないか
久保田君は見たところ、姿は変わってないし」
そう言うと、久保田君はまた微笑んだ。
「はい。ヒト型の知的生命体です。遠い星からやってきました。
少しだけですが、昨日のような超能力が使えます」
「そうなんだ」
俺はプリンを食べながら、久保田君の話を聞くことにした。
宇宙人・超能力と全て信じているわけではないが、不思議な話には興味がある。
身を乗り出して話を聞き始めた俺に、久保田君はどこか遠い目をして話し始めた。
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