第5話 タイムリープ
何かがおかしい。
大量のプリンを作る久保田君を見て俺はハッキリとそう感じた。
「久保田君……」
「なんだい?」
いや、と言いかけて俺は言葉を失う。迷いながらも俺は確信を持って口を開いた。
「おかしいよね、なんかおかしいよね」
「な、何がだい…?」
久保田君は明らかに動揺した。久保田君が善良で嘘がつけないことを俺は知っている。
そして、馬鹿みたいにこんなに沢山のプリンを作っている違和感。
俺は、バイト先のおばちゃんからもらったプリンを久保田君の前に突き出した。
久保田君の顔から血の気が引いた。
「これ、久保田君、食べたよね?」
「ごごごめんなさ」
久保田君は口がもつれて動かないようだ。
「いや、それはいいんだけどさ、その後、何した?」
久保田君は青ざめたまま必死に首を横に振る。
そんな哀れな久保田君を見て、俺はため息をついて床に座り込んだ。
久保田君を責めるつもりはない。ため口まで聞けるようになった、ましてやルームシェア生活まで出来る友達のことを俺はこんなに知らなかったんだ。
「怒らないの?」
プリンに囲まれたカピバラ似の久保田君は一層、ファンシーに見える。
「怒らないよ、友達だろ。それよりこの奇妙な状態をイチから説明してくれ」
「…………」
久保田君は迷っているようだった。
「久保田君は時を戻せるのか?」
俺は単刀直入にそう聞いた。久保田君は少しの間を置いて、ゆっくりと頷いた。
ほんと、何者なんだよコイツ。
俺はカラメルの匂いのする台所からスプーンを取ってきた。冷蔵庫に大量に冷やされている久保田君の作ったプリンを一つ取って食べ始めた。
旨い。多分、久保田君に突き出した高級プリンより旨い。
カスタードはなめらか。そして底にたまるカラメルは程よくほろ苦い。
久保田君は俺が怒っていないことに余程、安心したのか、いつもの眠そうな目に戻って俺がプリンを食べる様子を満足そうに眺めていた。
これ以上、聞いて良いものかわからない。
久保田君の人の良さを俺はこの半年以上の学生生活で実感してきたが、やはり、人として踏み入れられない事情はあるはずだ。
久保田君にとっても。
俺にとっても。
「久保田君、美味しいよ」
俺が久保田君のプリンについて感想を言うと、久保田君は満面の笑みを見せた。
「でもね……」俺は続けて言う。
「勝手に時を戻しちゃ駄目だよ。ゲームじゃないんだからさ」
久保田君は神妙にコクリと頷いた。
まだ冷やしていない30個はあるだろうプリンに囲まれて、俺は決意した。
本当の友達になるためには、もっと久保田君と真剣に向き合わなくちゃ駄目だ。
少なくとも、ここにあるプリンを全て食べ終わるまでには。
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