第4話 俺のプリン
ない。
ない。どこにもない。
何がないって、俺のプリンだよ!
昨晩、疲れて帰ってきて翌朝の楽しみに置いていた俺のプリン!
犯人は分かり切っている。
「久ー!保―!田ー!!」
俺は猛烈に腹が立って久保田君のいや、久保田の部屋をガンガンどついた。
「えっひえっ」とおびえる声が中からしている。俺は寝起きのせいもあって無茶苦茶に怒鳴った。
「俺のプリン返せ!働いてもないくせに!!なに食べてんだよ!」
「ごめん!!」久保田君の涙声が聞こえたところで俺の怒りは少し収まってきた。
しかし、食べ物の恨みは怖いのである。俺はまだ、カッカとしていた。
「ごめん、戻すね!」
久保田君がそう呟く。
「は?」
俺が聞き返すと、突然、ギュルギュルギュルと久保田君の部屋から凄まじい音波が襲ってきた。俺はそのかまいたちのような衝撃波に頭から打たれた。
気がつくと俺は今日も久保田君と購買部でお菓子を漁っている。
隣にいる久保田君は俺が何のお菓子を選ぶのか待ってくれている。
俺はどれを買って食べようかと脳内シュミレートに余念がなかった。
久保田君は「これがいいんじゃないかな」と俺に商品を指し示した。久保田君に言われて手に取ったお菓子はプリン味のチョコレートだった。
うーん、さすが久保田君。
俺の今の気分にマッチするお菓子を当ててくれる。
迷わずプリン味のチョコレートを手に取る。
久保田君は結局なにも買っていない。適当な休憩場所に向かう俺の後をひょこひょこついてくる。
久保田君は俺がベンチでチョコレートを食べている間、「お菓子入門」という誰もこの大学の図書館で借りたことはないだろうと思われる本を熱心に読んでいた。
お菓子でも作るのだろうか。だとしたら、甘党の俺はとても嬉しいのだが。
「君、ぷ…プリン好きだよね」
久保田君は何故かぎこちない動作でお菓子入門の一ページを示してくる。
『カラメルが自分で作れちゃう!簡単なめらかプリン』というレシピだ。
「え?久保田君、作ってくれるの?」
久保田君はコクコクと首を動かして、必死に頷いた。
いつも変だが今日の久保田君はさらにおかしい。
俺は熱心にプリンの作り方を眺める久保田君を残して、バイトへと向かった。
今日は、何故かプリンに縁のある日だ。
滅多に手に入らないという噂の高級プリンをバイト先のおばちゃんから差し入れされた。
俺はその瓶までもが綺麗に包装されたプリンを持ちながら、何かが引っかかるような思いがしていた。
それは、喉元まで出そうで出ない言葉のようだ。
久保田君とルームシェアしている家へ帰ると、甘いカスタードの匂いが鼻をついた。
扉をあけて驚いた。
久保田君は製菓用の膨大な数のアルミカップにカスタードを流し込んでせっせとプリンを作っていた。
絶句する俺に久保田君は満面の笑みを見せて「おかえり!」と出迎えた……。
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