第8話 マイケル

「マイケル、これを見てみろ」

仲間の一人が険しい表情で双眼鏡を渡してきた。

そっと覗いてみる。

「何だ...」

目の前に映る小さな丸の中には長い隊列が端から端まであった。

普通の兵じゃない。

生身の兵ならこれほど大胆に姿を現す事はまずありえない。生身の兵が、あれほど太陽の下で輝く事もありえない。生身の兵は、

そこにはなかった。

厚い甲羅に身を委ねている兵士に隠れる必要はない。銃器を担いでゆっくりと歩いてこればいいだけのこと。こっちの弾丸など、津波に消える小石同然...

銃が唸り、ミサイルが飛び、爆弾が吐く戦場の上でナイフを振りかざす兵士がいたとする。

そいつは気にする対象内か?

馬鹿なのか弾切れなのか知らないが、その内死ぬ彼の顔には余裕が満ち満ちている。

彼は武器を極める必要がない。どこかに秘めている圧倒的な力が、戦場で趣味を嗜む余裕をくれている。それがナイフの振りかざしであれ、なんであれ。

今まさに、そいつらが双眼鏡の向こうにいる。

余裕の結晶。

絶対の確信を持つ者。

こっちに歩いてきている。

溺死体のようにぶくぶくと腫れあがった醜い鉄の戦列。

「おい、逃げるぞ」

「は?どういう事だ?ここから離れる訳にはいかない」

チェ。どうしてバカはこうありふれているんだ。俺にでも勝てない事が明確なのに...

「これは見せしめだ。ミサイルを俺達に落とさなくてもいいことを、俺達に見せているんだよ。遊ばれている事を思い知らせる事で幸福させようとしてるんだ。こんな低コストな戦い方、いつまでも続くぞ」

「その言葉、終わったら撤回させてやる。こっちから撃つぞお!」

気合のこもった返事が後ろで響く。

勝手にしてろ。

いや、待て...

これはもしかしたらいい機会なのかもしれない。

生まれ変わる機会。

俺は別に、死後の再来を信じている訳ではない、だが、その可能性に賭けてもいいとも思ってきた。元々戦場で生きる俺だ。いつ死んでもおかしくない。小さな欲も満たされなくても構わない、と思う...だから、運命?って言うのかな、に命を任せてみたい。

ここで犬死したら、俺は永遠の存在だったとしても満たされないって事だけだ。

それは、受け入れられると思う。

ロケットランチャーを拾い上げてロボットの隊列に打ち込んだ。

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