第5話 マイケル
〈中東の何処か〉
〈午前六時十二分〉
朝日が綺麗だ。マイケルは心の底からそう思った。
世界の何処にいろうとそれだけは変わらない。同じ太陽が惨めな地球人の事情も知らずに、同じように毎回昇り続ける。
アメリカもそうやって俺を見下しているのかな?
冷めきったコーヒーを飲み干して仲間の待つテントへと向かった。
戦争は辛い。
訳もよく分からず、ここで生まれてきたから戦い、敵が殺しに来るから返り討ちにし、命令通りに動いている俺。
なんだか、ずっと前から欲望というのが俺には無かったと思う。
自分の意志で生きている気がしない。戦う理由も、殺す理由も、何もかもが知らない他人から与えられたもの。預かったもの。親を知らなければ愛も知らない。
ここにいる仲間も兄弟ではない。今更だが、「仲間」という言葉がそもそも合っていなかったと思う。
だが、最近ではいつの間にか小さな欲が出来た。俺に欲望が無かった事を自覚したのが多分その時だろう。
それはただ、戦争をしたくない、という思いだった。
とんでもなく当たり前で、他人から見たら激薄の極みかもしれないが、俺はこの天啓に没頭した。
「...愛されたかったなあ」
あ、これも一つの欲だな。
最近、以前では考えられなかった程に生き生きしている気がする。
それで、俺の欲をどう満たすかだが...
直感的に考えたのが死ぬこと。俺がこの世から、戦争からそのように逃げたらもう戦わなくて済む。
これはもちろん論外だが。
逃げるのは困難だ。戦争というのはそうそう手放してくれるものじゃない、だから、出来れば生まれ変わってみたい。生まれ変わったことを自覚している誰かになりたい。
例えば、今戦っているアメリカ人でもいい。
戦争を経験しているけど知らない、愛を知らなかったが愛される誰かに、
俺はなりたい。
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