第4話

マスクとグラサンを通して俺は歩道を歩いている。

俺に気付かない人々と一緒に歩いているが、そいつらは俺を同じ(しょみん)と勘違いしているらしい。こうしないと普通に出歩けない。だが同じだと思われるのが気色悪くて、サインを断りながらゆっくりと進む方がマシだとも考えてきた。

人の中にはロボットが交じっている。

それぞれの家族についていきながら荷物を持ったり、子供とじゃれ合ったり、たまには車の運転をしているロボットも横を通り過ぎる。

俺の工場で俺が作ったロボットさえも俺に気付かずにいる。だがそれは別にいい。ロボットなど工場でいくらでも会える。それに、俺を認識するのはちょっと、気が引けるぞ。迷惑なんだ。


花屋で買い主の隣に立っているロボットが一人、カールが歩き去るのを眼で追った。


公園のベンチに座るカールは満足気にロボット達を見る。


工場に帰ったら玄関の前でスーツを着た男が二人立っていた。即座にその用を察知した。

やっぱりあの噂は本当だったらしい。

「やあ、君たち、俺になんかようかい?」

「カールさん、わたくしこういうものでございます」

男は名刺を差し出した。政府のアレクサンドルらしい。

「まあ、俺も噂は聞いてます。中で話しましょうか?」

二人を連れて長い廊下を歩いた。

「カールさんはここで四百人もの社員を雇っているんですね」

「そうだ。みんな他にする事がなくて拾ってやったんですよ、結構簡単な仕事ですから」

「それにしては静かですね~」

「今日は休みなんですよ~」

ひたすら歩く。

「右にあるのが、社長である俺専用の部屋です。そこでロボットの内部を作っているんですよ。今となってはほとんどオートマですが」

「オートマですか、たしかにここならそれが当たり前だと言える。それでも社員を雇うカールさんを尊敬しますよ」

「はは、いやあ、彼らがいなかったら初期開発が出来ませんでしたから。彼らが作ったロボットのせいで無職になるのは、ちょっと嫌だったんですよ、あ、オフィスがこちらです」

一番貧相は部屋を選んだ。

小さなテーブルを挟んで座ったら、話はさっそく始まった。

「カールさん、我が国が今戦争の真っ最中にいる事をご存じですよね。我々にしても素早い完結を望んでいるのですが...」

「任せてくれ」

返事はもう決まっていた。

「よろしいのですか?人を殺す為のロボットの武装と開発をお願いしているんですよ?」

「何だよこの偽善者が...お前らの方が散々殺しまくってる癖に」

「いや、ただ、精神をもろくする契約ですので」

「もう準備は出来ている、だが条件はある」

「その条件とは?」

「まずその一、俺のロボットをいじったりしない事。そこだけは完全な信頼が欲しい。内部構造なんて俺の命のようなものですよ、パテントだけでは満たされない所有権を俺は欲しい。相応しくない連中にいじられるのは論外だ」

「...いいでしょう。約束します」

「その二、これも大事だ、戦闘の後の手入れも俺にさせてくれ」

「わかりました」

「あとは、お金の問題だけだな」

「それの事なら、全体で五百億支払う事が出来ます」

ご、五百億?!うっひょー、金の使い方が大胆だなー。俺の自己資本が倍するぜ。

「...その、ご、五百億ですか...まあ、悪くはないですね...」

アレクサンドルはアタッシェケースから何かのパンフレットを取り出した。俺の選択が終わりに近づくのを感じる。

「こちらの資料を見てもらいます...」

間違いじゃなければいいが。

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