2.友人の場合

俺の友人に、夏目宗助という男がいる。

目の前で泥酔している男がそれだ。

この男、超が何個もつくバカなのだが、何故か腐れ縁が続いていて、こうして飲み屋で定期的に話を聞く関係を続けている。

元々は俺も宗助相手に愚痴を零していたのだが、宗助からもたらされる愚痴、というか話が、あまりにも稚拙すぎて釣り合いが取れず、バカバカしくなってやめた。

愚痴ることがアホらしくなるほど、バカなのだ、こいつの話は。

そういう意味では、俺の精神衛生上の健康を保つのに、一役買っているような気がしないでもない。


「ミサキチに会えない寂しいよぉ~」

「あーはいはい。そうだな寂しいな」

「心がこもってないよ、慰めてよぉ」

「あーはいはい。可哀想だよ可哀想」


真っ赤に染め上げた顔を、居酒屋のテーブルにべたっとくっつけている宗助は、ミサキチ、正確には美咲、という女性に惚れている。

それはもう心底惚れ込んでいて、「この恋が成就しなかったら、コイツはきっとストーカーになる」と危機感を覚える程の盲目さだ。

宗助と美咲嬢とは、幼馴染らしい。

俺は会ったことがないが、宗助の話から判断すると、どこにでもいる普通の容姿なのだろう。

「一目惚れなんだ」としか繰り返さない宗助からは、美咲嬢の性格が伝わってこないが、どうもサバサバ系女子のようだ。

あと、日本酒が好きな酒豪。

俺の中では勝手に、姉さん女房的なイメージで固まっている。


宗助は事あるごとに美咲嬢に相談を持ち掛けては、本題に入ることができないまま、相談料だけ取られて終わってしまっている。

その度にこうして俺の元に愚痴りにくるわけだが、バカ正直に律儀なため、毎回ビール一杯分は奢ってくれる。

正確に数えたわけではないが、月に一回程度の頻度で、かれこれ十年目に突入するのだから、相当額、奢って貰っている計算になる。

こいつの給料の大半は、酒に消えているのではないか。

俺への奢りもそうだが、美咲嬢への貢物の質がヤバイ。

この間はネットで一万円以上する酒を発注したと言っていたし。

こいつは大変バカなので、いい加減、破産するのではないかと心配だ。


「……ほれ、もうやめとけ。お前飲めないだろ」

「でもミサキチと一緒に飲みたいんだもん……」

「それ、本人に直接言えよ」

「……、恥ずかしいじゃん」


ああ、まったく、本当にバカだ。さっさと当たって砕けてしまえばいいのに。

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