100度目の正直
一白
1.彼女の場合
「ここで会ったが百年目!とかって言うじゃん?」
「言うね。それがどうしたの?」
「あれ、言う側の人間も言われる側の人間も百歳以上ってこと?」
「ンなわけないでしょ。と、4」
私とトランプで遊んでいるこの男の名前は、夏目宗助という。
ご両親が、というより母親が、「息子が生まれたら絶対に漱石って名づける!」と豪語していた程の夏目漱石好きで、その影響で宗助と命名された。
母親曰く「顔が好き」なようで、文章や人柄云々はどうでもいいらしい。
いっそのこと清々しいが、これが例えば二葉亭四迷とかの顔が好きだったら、一体どういった名前を付けたのだろうか。
少し気になるところではある。
さておき、この男、宗助。私の幼馴染というヤツであった。
かれこれ小学校からの付き合いになるが、先の会話から察せられるとおり、頭が大変悪い。
学生時代に試験勉強のお供をした回数は数え切れず、成人してからも様々な事柄に付き合わされた。
歓迎会のスピーチをどうしようだの、有給休暇をいつ消費しようかだの、そんなものは自分で決めればよろしい。
まあ、俗にいう優柔不断、で済まされる範疇なのかもしれないが。
「はい、あがり」
「え、もう?!」
「残り札多すぎ。じゃ、これもらおっかな」
「ああぁー!俺の大切な大吟醸さんがー!」
学生時代は良いとしても、社会人となってからは、相談料を頂戴しているのだが、宗助にも一応、矜持というものはあるらしく、タダでは支払いたくないらしい。
ということで、毎回、相談に乗った後で簡単なゲームをして、それに私が勝てたら相談料を貰えることになっている。
ちなみに、いまのところ私の全勝だ。
ポーカーフェイスができないから、勝負ごとに弱いのだ、この男は。
「ほら、早くお猪口」
「へーい、へいへい」
「返事は一回」
「へいらっしゃい!」
「なんか違う」
これがただの腐れ縁なら、そろそろ付き合い切れない頃合いなのだが、どうにも憎めず、突き放せない。
私もだいぶ絆されてきたな、と思うものの、いい加減そろそろ、何かしらアクションを起こして欲しいところである。
口では残念がったり、嫌そうなことを言ったりしてはいるものの、猪口を二つ持ってきた宗助の目じりは下がり、口角はほんのり上がっている。
まったくもって、ポーカーフェイスが下手すぎる。
さっさと胸中を言ってくれれば、応えてやるというのに。
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