雪降る夕べは、まどろみ日和

一白

ある寒い冬の日のことです。

その日は朝からしんしんと雪が降り続いて、小さな子どもであれば、埋まってしまいそうな高さになっていました。

そういうわけですから、幼稚園で一番小さいミユキちゃんは、お母さんから「今日は外に出ちゃあダメよ」と言われてしまいます。

ミユキちゃんは、お家の窓から外を覗いて、残念そうに言いました。


「お外、いきたいなぁ……」


せっかくの雪なのです。

ふわふわで、ひんやりと冷たい雪の中で、思いっきり遊びたいミユキちゃんでしたが、お母さんがどうしても許してくれないので、諦めることにしました。

ミユキちゃんのお母さんは、怒るととても怖いのです。

空から次々に降ってくる雪を、じいっと眺めているうちに、ミユキちゃんの瞼はだんだんくっついていきました。




ふと気がつくと、ミユキちゃんは雪だるまの国にいました。

背の高い雪だるまも、風船のようにお腹がふくらんだ雪だるまも、みんなにこにこしています。


「どうしてみんな、わらっているの?」


ミユキちゃんが尋ねると、雪だるまたちは口をそろえて言いました。


「だって今日は、雪だもの!いくらでも動けるんだよ!」


ぴょんぴょんと飛びながら移動する雪だるまは、一歩ごとに体の雪が削れてしまうのです。

雪の日は、体の雪が減ってしまっても、空から舞い落ちる雪のおかげで、すぐに元通りになるのでした。

雪が降ると外に出られないミユキちゃんとは、まるで逆です。


「いいなぁ、みんなはお外であそべて」


ミユキちゃんがつまらなそうに呟くと、周りの雪だるまたちはみんな、とても驚きました。


「えっ、どうして?一緒に遊ぼうよ!」

「でも、ミユキはちっちゃいもん。うごけないよ」

「大丈夫だよ。ほら、おいで」


雪だるまたちが、木の棒やスコップの腕を振って、ミユキちゃんを誘います。

あんまり誘うものですから、ミユキちゃんは勇気を出して「えいっ」と雪だるまたちの方へ飛んでみました。

ミユキちゃんの体は、ほんのちょっとだけ宙に浮いて、雪の上にぽふんと着地しました。


「うわぁ、すてき!ミユキ、ゆきの上に立ってる!」


他の雪だるまと一緒になって、ミユキちゃんはぴょんぴょんと跳び跳ねます。

すると、雪だるまたちは言いました。


「それはそうだよ。だって君も、立派な雪だるまじゃないか」

「うんうん。とっても可愛い雪だるまだ」

「えっ!ミユキ、ゆきだるまじゃないよ!」


ミユキちゃんは、自分の大きな声で飛び起きました。

あれだけたくさんいた雪だるまは、見渡してみてもどこにもいません。

窓の外では相変わらず、音もなく雪が積もっていきます。


「あぁ~あ、夢だったのかぁ」


本当に雪だるまの国に行けたら、どんなに楽しいことでしょう。

ミユキちゃんはがっかりして、窓から離れてお母さんのところへ行きました。

夢のことを話そうと思ったのです。


「やぁミユキ、ただいま。おみやげだよ」


リビングの扉を開けると、ちょうどお父さんが帰って来たところでした。

ミユキちゃんに小さな箱を渡して、「開けてごらん」とささやきます。


「なにが入ってるの?」

「開けてからのお楽しみだよ」


お父さんはにこにこ笑うだけで、ミユキちゃんに中身を教えるつもりはないようです。

赤い包み紙を、不器用に破りながら剥がして、取り出した箱を開けると、中には小さなスノードームが入っていました。


「わぁ!ゆきだるまのくにだ!」


小さな雪だるまがたくさん並んでいるスノードームの中では、きらきらと雪が舞っています。


「おかあさんにも見せてくる!」


走り出したミユキちゃんの手の中で、雪だるまたちが、ぴょん、と小さく飛びました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪降る夕べは、まどろみ日和 一白 @ninomae99

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ