【第二章】◆その瞳に視えているもの
「まったく、いきなりなにを言い出すんですか、助手さんは」
表情がなくなっていたのも
そのプロの技には、俺ですらどこか恐怖を覚える。
「わたしがお二人を殺そうとしていたと
一度は言ってみたかった
「ちょっと、
三人の中で最も困惑を浮かべるのは
「犯人の狙いは、宝物庫のサファイアじゃなくて斎川さんの
そう、俺はまだ、夏凪にも事の真相をすべて話したわけではなかった。
斎川が自分の口で語ることを期待したが、どうやらそれは諦めるしかないらしい。
「夏凪が言う通り、斎川は自分の秘密については明かしたが……
「嘘? どういうこと?」
一方の斎川は、微笑を
「斎川
えっ、と夏凪が固まる。
「いや、実際のところ夏凪はついで、ってところだろうけどな。敵の狙いは恐らく俺だ」
「そんな……なにか証拠でもあるの?」
探偵であるはずの夏凪の方が被疑者のような
Prrrrrrrrrr──
と、そのとき。ポケットの携帯に着信が入った。
「もしもし、君塚です。……はい、はい……そうですか。いえ、お手間を取らせました。……ありがとうございます。では、また」
良かった。向こうも首尾よく事は進んだらしい。
「君塚、今のは?」
「ああ、
さすがは
「……! で、でも犯人の目的は
「だから、
「どういうこと? 犯人は、『宝物庫のサファイア』じゃなくて、『宝物庫にいるあたしたち』を狙うつもりだったってこと?」
「そういうことだ」
なにも知らずにノコノコやって来た俺たちを、時限つきの爆弾で爆殺しようとしていたのだろう。さっきのボウガンといい、敵は直接姿を見せない腹らしい。
「つまりは、斎川が俺たちについていた
「そんな、証拠は?」
信じたくない、と言わんばかりに夏凪が詰め寄ってくる。
「風靡さん、知らなかったってよ」
「え?」
「斎川宅に犯行予告が届いているなんて情報、警察には一度も寄せられてなかったって」
「そんな……警察には相談したけど取り合ってくれなかったんじゃ。だからあたしたち探偵に頼ったって、そう言って……」
夏凪が斎川を見る。青い瞳は、一ミリも揺れ動くことはない。
俺が初めて斎川に会った日に抱いた違和感。その一つがそれだ。
あれだけ金があるんだ。それをちらつかせて動かない警察は、良い意味でも悪い意味でも警察じゃない。
そこであの後念のために風靡さんに連絡を取ってみると、予感は的中していた。警察は、斎川邸への犯行予告を一切把握していなかったのだ。
それはつまり、斎川は最初から、警察ではなく俺と夏凪という特定の二人に接触しているということで、俺たち二人になにか特別な用事があるということに他ならない。
確かにその時点ではまだその用事が、俺たち二人の命であるとまでは言えない。だけど、夏凪にはともかく、俺には命が狙われる理由がある。そしてその犯人たち──敵にも心当たりが。
「でも、おかしいでしょ? どうしてアイドルの斎川さんが、そんなこと……まさか──」
夏凪が言う「まさか」の先は、恐らく事実とは違う。
彼女は《
「脅されてたんだろ」
その時はじめて、わずかに、
「その
それが、
斎川は、きっと自分の命よりも大切なその左眼を守るために俺たちを敵に売ったのだ。
「けどな、斎川。あいつらはそんなに甘くない。奴らは俺たちの命もろとも、お前の左眼も奪おうとしていた」
いや、もしかすると奪うどころか、破壊しようとしていたのではないか。
サファイアの左眼を、あのボウガンの矢によって。そして、その目的は──
「でも、どうして」
割って入ったのは
「犯人は……君塚の言うその組織は、どうして斎川さんの左眼まで狙うわけ? いくら
「義眼……そんな、生易しいものじゃないんだよ、ソイツは」
「え?」
あいつらが狙うからには、それ相応の理由がある。
「そうだろ、斎川? なあ、お前には今、なにが視えている?」
斎川は、ちら、と一瞬、俺の足元にあるクラッチバッグに視線をやった。
「護身用、ですか?」
ようやく発した声音は、いつも通りに優しく愛くるしい。
やはり、か。
さすがアイドル。俺の鞄の中身を知りながら、そんな
「護身用か。ああ。どうにも俺は昔から、命を狙われる場面にやたらと遭遇するもんでな」
俺は、素早く
そして、引き出した拳銃を、正面に構えた──
「わたしの《左眼》は、あなたたちには渡しません」
同じように、俺たちへと拳銃を向ける斎川
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