【第二章】◆決戦は日曜日

 翌日、日曜日。

 今日は、斎川家の家宝「奇跡のサファイア」が盗まれるその予定日。

 斎川家の当主である斎川ゆいから依頼を受け、俺となつなぎは彼女の家の警護にあたる手はずとなっていた。

 そして今、そんな俺と夏凪はタクシーに乗ってへ移動している。

きみづか……昨日の話、本当なのよね?」

 後部座席、隣に座った夏凪がく。

 昨日。俺はあのリハーサルが終わった後、いつかも使った喫茶店で、夏凪と今日の段取りについて話し合っていた。その際に俺は、斎川唯が隠しているについて夏凪にも初めて共有したのだった。

「信じてくれたから、今ここにいるんじゃないのか?」

「それは、一応。でもの方は大丈夫? さすがにもぬけの殻ってわけにも……」

「ああ、そっちも手は打ってある。ふうさんが行ってくれるらしい」

「……いつか訊こうと思ってたんだけど……あの人って何者?」

「ひとりで軍隊一個分の戦闘力はある」

「説明になってるようでなってないんだけど」

 悪いが俺もあの人のすべてを把握しているわけではないんだ。ただ、とにかく頼りになる人であることは間違いない。

「なにか不安なことでもあるのか?」

「別にないけど。……ただ、なんとなく釈然としないだけ」

「なにが?」

「結局、きみづかがこの件を解決しようとしてること」

 探偵はあたしなのに。

 そう言ってなつなぎは窓の外、落ちかけたを眺める。

「今回はたまたまだ」

「そうかな」

「ああ。きっとそのうち、俺がお前に助けられる日も来るだろ」

 どちらかと言えば、今まで俺はそっち側のポジションばかりだったんだ。たまには少しぐらい働かないと、お前の心臓に怒られるからな。

「そろそろ開演時間か」

 俺は腕時計に目を落とす。ふうさんたちを説得したり、他にもある人物に協力を要請したりと、ここに至るまでに思った以上に時間を食ってしまっている。

「これで間に合わなかったら洒落しやれにならないからな……」

 もうすぐさいかわゆいのライブ、その一曲目が始まる。

「なに、やっぱり気になるの?」

 さっきの件は納得してくれたのか、夏凪がわずかに口角を上げていてくる。

「あくまで仕事としてだ。『らずべりー×ぐりずりー』に興味はない。昨日も喫茶店で言ったろ?」

「言ってたけどさあ、いや、演技であそこまでできる? 昨日の君塚、超キモかったよ」

「超キモかったとか言うな。女子高生から言われるキモいは、なによりも傷つく」

「実は今も、本当は趣味であそこに向かってる可能性もあるなって思ってる」

「あほ。仕事じゃなかったら行かねえよ、になんて」

 軽口をたたきながら、俺たちは──に向けてひた走る。

 しかし、既に手が打ってあるとは言え、事に間に合わなければ意味がない。

「少し、急いでほしい」

 俺は、タクシーのドライバーに声をかける。

「……シートベルトを」

 帽子の下の金髪。

 その影に隠れた濁った瞳が、ミラー越しに俺をちらりと見た。

「『81』には間に合いたいよな」

「やっぱりハマってない?」

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