番外編1

「「団長!いい加減にしてください!」」


 二人の副団長の声が部屋に響く。


 一人は聖騎士団副団長、オットー・バンズ。

 一人は魔法騎士団副団長、ケイン・アルトナ。


 これまで究極に仲の悪かった二つの騎士団が同じ部屋で話し合いを行うまでになったのには理由があった。


「妹のエリィを返せ!」

「エリはもう私の婚約者です!」


 魔法騎士団―通称『魔法団』団長、ルーファス・ナイルズの妹であるエリカ・ナイルズが、聖騎士団―通称『騎士団』団長のテオドール・クラムスと婚約したからである。

 要はエリカが立役者である。


 この団長達、時にはエリカのことをどこまで知っているか対決をしたり、時にはエリカに言われたことを延々と惚気たり、とにかく本来の会議の意味を全く無視してひたすらエリカに関する話をするのである。

 普段は真面目で誰からも憧れの団長であるのに、団長同士が集まるといつもこうである。


 ちなみに今回は、ここ合同棟内の整備についての話をする予定であった。

 どうやって使っていくか、予算をどう組むかなど、連携しなければならないことをトップ会談である程度決める予定だったのだ。


 何故トップ会談となったかというと、この合同棟、実は何十年も前から案だけは出ていた。

 そのためずっと予算は組み込まれていたのだが、いかんせん二つの騎士団は仲が悪い。

 全く話は進まず、しかし予算だけは毎年毎年計上されていた。

 そこに目を付けたずる賢い一部の団員は、どうせ使われない予算ならば、とこっそりと使う者が出てきた。

 それに気付いたのが今の団長達。

『ふざけるな。国の金が勝手に使われるくらいならさっさと作ってしまえ』となかなか乱暴な意見だが、これが一致してしまったためサクサクと事が進み作られたのである。

 そして、また同じことが繰り返されてはたまらないと、この件だけは団長と副団長だけで話し合おうと決めていたのだ。


 仲が悪いと言われているが、実は今の二人の団長と副団長自身はお互いをそこまで嫌悪しているわけではない。

 各々、得意不得意があるだけだと意外と理解のある面々が揃っているのだ。

 それに何といっても実力は天下一品。

 このクルシュツ王国成立以来、一番素晴らしい騎士団と魔法団ではないかと言われているほどなのである。


 しかし、トップはそんな考えではあるが実際の内部は何とも言い難く。

 そのためなかなか思うように行動出来なかったのだが、エリカのおかげで両騎士団に繋がりが出来た。これで堂々と会議を開くことが出来る。

 やはりエリカが立役者である。


 そんなわけで、もはや第何回目になるか分からないこの会議を本日開催しているのだが、それだけの回数を開催していながら全くもってこれっぽっちも話が進んでいないのだ。


 二人の団長のせいで。


 そもそも会議の調整などをやっているのは団長本人ではなく副団長。

 いつもはチャラチャラと軽い感じのオットーも、いつもは冷静沈着で声を荒げることのないケインも、さすがに腹に据えかねたようである。

 そして冒頭の言葉に戻る。


「「団長!いい加減にしてください!」」


 二人の怒声にビクリッと体を強張らせ、そろりと副団長の方を向く団長達。


「団長。エリカさんの話は今、関係がありますか?」


 銀縁の眼鏡の奥から覗く、鋭く冷ややかに見つめる切れ長の目。ケインだ。


「団長。惚気はもう結構!」


 普段はやや垂れ目で柔らかい雰囲気だが、今は目を細めて心なしか冷気が漂っている。オットーである。


「「ごめんなさい!!!」」


 怒らせてはいけない人達を怒らせてしまった団長二人は泣く泣く夜明けまで合同棟の話を詰めたのであった。

 もちろん、二人とも本日は愛しのエリカに会うことは叶わなかった。



「テオ様から何の連絡もないし、兄さんからは手紙が来ない…。珍しいこともあるわね。…寝ましょ」



テオドールの屋敷でご飯を作って待っていたエリカはぽつりと呟き、ふわぁと欠伸をしながら寝室へ入って行った。



 無事に会議が終わった後、屍のようになった団長二人はどちらが先にエリカに癒されるか対決で結局朝を迎えたのであった。

 副団長二人は顔を見合わせて『はぁ』と盛大に大きな溜め息を吐き、団長を放置して帰宅したのは言うまでもない。

 お互い「団長は『テオドール』『ルーファス』でなければ副団長はやらない」と言いきるほどに信頼しているので、たとえ何があろうとも自らの団長の味方ではあるが。


 …頑張れ副団長ズ。

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