9※

 夕方、騎士団へ戻って来て、オットーと今日の情報のことを話していた。


「お前の勘は当たりすぎて怖い」

「そんなこと言うなよ。何かこう…ざわざわっとね、しちゃうんだよなぁ」

「どれだけ仕事を増やせば気が済むんだ…」


 はあ、と大きな溜め息が出てしまう。

 オットーに言われて街へ巡回兼情報収集に出た初日で気になる情報を入手してしまった。

 こいつの勘はどうなっているんだ?と思うほど当たりすぎる。

 しかも今回は悪い方。何となく予想はしていたが、今日は家に帰れそうにない。元より帰る予定ではなかったが。


「手伝ってもらうからな、副団長殿」

「へいへい~」


**********

 久しぶりに騎士団棟へ泊まり、自宅以外で朝食を取る。夕食、朝食と食べられないと、家の食事が恋しくなる。凝った料理ではないのだが、懐かしいようなほっとした味がするのだ。


(困ったな…)


 騎士団の食事も不味いわけではない。むしろ、美味しい部類に入るだろう。だが、何となく落ち着かないのだ。

 恋しすぎる食事を頭から追いやり、手早く朝食を終えて、明日からの準備をするために団長室へ向かう。

 街で入手した情報を元に、怪しい屋敷の偵察を行うこととなったのだ。

 あまり大人数で行動するのは警戒されてしまう可能性があるため、数人で隊を組むことにする。

 俺とオットーは指示する側のため隊は組まないが、街の巡回を行うことにする。常に動ける位置に居るためだ。

 巡回は交替で、昼間はオットーで夜間が俺だ。街に出ていない時間は騎士団棟へ待機する。

 団長として顔が知られ過ぎている俺は、頻繁な巡回は街の人にも警戒されてしまう。

 まだ未確定なことも多いため、慎重に行動しなければならない。


 コンコンとノックされたので、どうぞ、と答えるとオットーが入ってくる。

 珍しく真面目な…いや、硬い表情を浮かべている。


「どうした?」

「昨晩、例の屋敷に行ってみたぞ。中には入ってないが、やはり空き家のようだな。ただ、人が住んでない割に綺麗なんだ。綺麗すぎる…やっぱりおかしいぞ」

「そうか。あの場所までを巡回ルートにいれよう。今日は準備をして、明日から動こう。休んでいいぞオットー。明日からは頼む」

「りょーかいー」


 ふわわと欠伸をして、手をひらひらさせながら団長室から出ていくオットー。

 軽い感じだが、きっちり仕事をこなすあたりは、やはり副団長にまでなったやつだ。だから信用もしているのだが。


「明日から忙しくなるな…」


 ぽつりと呟いた言葉は、誰に聞かれるでもなく寂しく部屋に響いていた。


**********

 その日も少し街を回ってから帰宅したため、遅くなってしまった。

 それでも、エリックは夕食を準備して待っていた。

 久々に顔を見た気がする。…きちんと見えているわけではないが。

 ふと、合同棟で見た光景が頭をよぎり、つい口にしまっていた。


「エリック、魔法は使えるのか?」

「え?い、いえ、魔法は…使えません。使えていたら奴隷になっていませんよ」

「そうか…そうだな。いや、一人なのに家のことを全て任せてしまっているのに完璧だから、どうやっているのか気になってな。食事もうまいし。俺にも教えて欲しいくらいだ」

「あ、えっと…完璧ではないと…思いますよ?掃除は一階と二階を日々交替でやってますし…料理は好きなだけです。…嬉しいです」


 嬉しい、と答えたエリックは少し耳を赤くしていた。微笑ましくなる。

 突然、魔法の話をしてしまったのは失敗だった。性別すら隠しているのだから、何か事情があるはずなのだ。魔法団のことは気になるが聞けそうにない。

 それよりも、話しておかないといけないことがあった。


「そういえば、明日から一週間は泊まりになるから、しばらく自由に過ごしてくれ。早く帰宅出来そうになったら連絡する」

「かしこまりました」


 そこで会話は終わる。もっと気のきいたことを話してやりたいが、魔法の話を出してしまったこともあり少し気まずい。

 毎度のことながら、静かに食事を終えたのであった。


 それがエリックとの最後の食事になるとは思わずに。

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