第18話 メンターとプロパー

 オッサンは勝手知ったるナントヤラなのか、研修所の通用口らしきところから中に入っていき、ずんずん進んでいく。両開きのドアを開くと、そこは大ホールだった。


 見知った顔が幾つもある。

 同期の奴らだ。

 だが、連中はこちらを見もしない。

 見る余裕もないんだろう。

 全員、顔をぐしゃぐしゃにして声を枯らして叫んでいた。


 どうやら自分の長所、セールスポイント、みたいなことを言わされているようだった。それを、それぞれに二人付けられた先輩社員が反駁はんばくしていく。主張。反駁。反論。論破。以下、繰り返し。同期は全員が死にそうな顔。先輩たちはいびつな笑みを浮かべている者さえいた。両者に共通しているのはいずれも虚ろな目をしていること。


「……なんなんすかこれ」

先輩メンター新人プロパーの人格をすり潰してる」

「なんのために?」


 訊いてどうする、と俺は思いながら、それでも尋ねていた。


「精神修業。じゃなきゃ人格改造。会社に従順なイヌにするんだ」


 とオッサンは言った。

 そして、


「そんなことより、マスクとゴーグル、絶対外すなよ。お前もなる」


 目の前の光景よりも余程重要だと言わんばかりの口調だった。大ホールのあちこちには噴霧器のようなものが配置され、怪しげな煙が噴き出していた。

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