第5話 唯一のルール

 あんなことのあった翌朝、テンションが上がるわけもなく、かなりダウナーな状態で出社した。エレベーターを使って最上階へ。そこから階段で屋上に出る。


「おはよーございます」


 プレハブの戸をガタガタ言わせながら開けると、既にオッサンは居た。


「おはよー。早いなーお前」

「いや、早いって言っても九時前っすよ」

「あー、言ってなかったっけ。ウチの部署は出社時間も退社時間も自由だからー。無理に朝っぱらに来なくていいぞー。こういうの、なんて言うんだー? セックスフレンド?」

「フレックスのこと言ってます?」

「そうそれー! 良く分かったなー、お前」


 俺もよく分かったな、って思ってますよ。


「だから定時出社しなくてもいし、なんなら毎日来ることもないぞー」

「はあ」


 どんな部署だよそりゃ。


「でもオッサ……あ、えーと、先輩の名前、まだ教えてもらってなかったっすよね」

「オッサンでいいぞー。オッサン課長」

「え、課長なんすか!?」

「まあなー」


 課長職。マジか。どういうことだ。


「課長は毎日出勤してるみたいですけど」

「オッサン呼びでいいってのー。ここ、空調効いてるし、仮眠室もシャワー室もあるしなー。俺んち風呂無しアパートだからこっちのが快適なんだよー」

「家、帰ってないんすか?」

「たまに?」


 たまにの頻度が気になるな。


「でー、フレッ?」

「フレックス」

「ックスだから、自由出勤でいいぞ。その代わり――」


 と、オッサンは古いデザインのガラケーを俺に投げて寄越した。


「――この社用携帯は絶対に肌身離さず持っておけー。これが鳴ったらどこにいようと絶対ここに来いよー」

「え」


 どこにいようと?

 絶対?


「いいなー?」

「あ、はい」

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