第69話 シルビアVSモンスター軍団②


「キーーーッ!!」

「ギャー!! ギャー!!」

「オオオオオオッ!!」


 続いて、次モンスターの波が私に近づいてきた。

 今度はトロル、リザードマン、グール、バーグラー、ヘルハウンド等の陸上系のモンスターと、人面蜂、スカルデーモン、ワイバーン等の、飛翔系のモンスターの混合部隊だ。


 陸上系のモンスターは、既に死んだ仲間の死体を蹴散らしたり、這い上ったりしながら、私に近づき、飛翔系のモンスターは相変わらず、空を飛んで私に近づいてくる。


 あー、これは少し数が多いな。

 ライオロスが暴れるにしても、私を背に乗せたままだと、足手まといになってしまうかもしれない。

 ここは一旦、ライオロスから離れた方が良さそうだ。


 私はライオロスの背中から翼を羽ためかせ、屋根の上まで移動する。

 屋根に足を乗せると、新雪で滑り用も無いのに、足が滑って地面まで転び落ちそうになった。

 ……なんか最近、私って異様に運が悪い気がする。

 私の運のステータスって『C+』なんだけど、なんか眉唾になってきた。

 どう考えても最近は、運勢が低下しているような気がしてならないんだけど。


「ライオロスっ!!

 貴方はモンスターの中に突撃して下さい!」


「……ゴシュジン……ソノバショ……モンスター……トンデクル……。

 ワレ……ゴシュジン……マモラナクテ……ヨイノカ……?」


「空を飛んでいるのを優先的に落としてくれれば、問題ありません!!」


「……ワカッタ……ガァァァァァァッ!!」


 主である私ですら立ちすくむような威圧を、ライオロスが吼え放つ。

 私ですらこんなにキツイのだから、威圧の対象になったモンスター達は、私が感じた程度の恐怖ではなかっただろう。


 陸地に居たモンスターはライオロスの威圧に歩みを止めて、後ろから来たモンスターが次々にぶつかって、押しつぶされていく。

 他方、空を飛んでいたモンスターは、ライオロス威圧に吃驚して、翼の羽ばたきを止めてしまい、バタバタと地面に落ちては、陸地のモンスターに踏みつけられていく。


 恐らく、HPの少ないモンスターなら、仲間のモンスターに踏みつけられた事が原因で、命を落としてしまうだろう。

 トロルの体重は500kgを超えると聞くし、そんなにが10体20体と重なって行けば、それだけで致死的な重量だ。


 結果、向かってきていたモンスターの波は、ライオロスの雄たけびだけで、壊滅してしまう。

 さらに、何十体かのモンスターは、仲間のモンスターに踏みつけられて、圧死してしまった。

 ……雄たけびだけでモンスターを殺すとか、『力』の召喚獣と言っても、流石に『力』有り過ぎでしょ……。


「ガァァァァァァッ!!」


 そんな中で、ライオロスはモンスターに休む暇も与えず、右往左往している別の群れの中に突撃して行く。

 花の槍を目にも見えない速度で振り回して、モンスターだった肉塊が辺り一面に飛び広がって行く。


 とあるモンスターは、仲間を盾にして見を守ろうとしたが、その仲間ごとライオロスに刺突され、胴体を消滅させられた。


 とあるモンスターは、ライオロスに吹き飛ばされた仲間の死骸が超高速で激突し、そのまま首が折れて絶滅した。


 とあるモンスターは槍の直撃を喰らう事は無かったが、音速を超えるライオロスの槍から生じたソニックブームが直撃し、内臓が破裂して絶死した。


 とあるモンスターは、そもそも戦う以前に、ライオロスの威圧でショック死してしまい、地面に倒れ込んだ。


 ……何だろう。

 例えるなら、蜘蛛とかサソリとかカマキリとかムカデとかを、調理用ミキサーの中に積め込んで、蓋をしないでスイッチを入れた感じ?

 サソリが毒針を、超高速で回転するステンレスの刃に突き刺すくらい、ライオロスを倒すのは無茶振りのような気がする。


 ライオロスが花の槍をモンスターに突き刺すと、突き刺された個所の半径1mくらいが爆散するし、薙ぎ払ったら薙ぎ払ったで、そこにあったモンスターの身体の一部が、一斉に空叩く舞い上がって行く。


「ガァァァァァァッ!!」


 この程度のモンスターでは、ライオロスに対して話にならない。

 もうこれは、戦闘じゃないと思う。

 虐殺って言葉でも追いつかないくらいの速度で、ライオロスはモンスターを葬り去って行く。

 どちらかと言うと、戦闘とか、虐殺とかじゃなくて、作業って単語の方が似合う気がする。

 これならケルベニを温存して、最初からライオロスの投入でも良かったかもしれない。


 そうして、屋敷に集まるモンスターは、ライオロス単体で殲滅されてしまった。

 かなりの数モンスターが居たけど、殲滅に要した時間は20分ほど。

 裏庭には損壊されたモンスターの死体が積み上がり、モンスターの墓場のようになってしまった。









「終わりましたね」


 動く生物が居なくなった裏庭を、ライオロスの背中に乗って歩く。

 吹雪で視界が悪いので、裏庭の全域を見渡す事はできないけれど、きっと朝になって雪が止んだら、この裏庭は物凄い光景になっているのだろう。


「屋敷の火も、落ち着いたようですね」


 裏庭から屋敷の中を覗くと、廊下に燃え移っていた火は消火されて、一番ひどかった台所の火も、見えなくなってきている。

 消火の命令を与えたトロルが外に出てきていないので、まだ屋敷の中で消火活動をしているのだろう。


「これで、ひと段落ですね……。

 私、少しは汚名返上できましたでしょうか?」


 ボロボロになった屋敷の一角を見るに、汚名はまだまだ返上できていないような気もする。

 どうしようこれ……。

 絶対に父さんや母さんに、怒られるよね?


「ゴシュジン……クルゾ……」


「来る? 何がですか?」


 周りを見渡すが、吹雪の音しか聞こえない。

 まさか母さんかセリカが帰ってきたとか?

 そういやあの二人、こんな時に、どこに行ったのだろう?


「あ……あれ?」


 なんだろう、吹雪の中に混じって、多くの何かが蠢くシルエットが、見えたような気がした。

 吹雪で視界は悪いけれど、あの方角は街へ続く坂道になるよね?

 街……そういや、街もモンスターに……。


「そ、そうでしたっ!!

 街にもモンスターが、溢れ返っているのでしたっ!!」


 するとその時、一瞬だけ吹雪の猛威が緩み、視界がクリアになった。

 すると街に向かう坂道から、とんでもない数のモンスターが屋敷に向かってくるのが見えた。


 屋敷の周りにいるモンスターを叩く事に固執しすぎていて、すっかりこの事を忘れていた!

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