第68話 シルビアVSモンスター軍団①
「行きますよ、モンスター。
絶対にこれ以上、屋敷には近づけませんから」
屋敷の裏庭にて、私とモンスター軍団の戦闘が始まる。
既に屋敷の台所は私1人では消火不可能な程、火が回っているし、廊下の壁はモンスターに崩されて、大量の雪が屋敷の中に入りこんでしまっている。
我が家をめちゃくちゃにしてさぁ?
家への侵入を許したのは私かもしれないけど、だからと言って家を破壊しても良いなんて道理は無い。
あんたら、生きて帰れるとは思わないでよねっ!!
「キーーーッ!!」
「ギャー!! ギャー!!」
「オオオオオオッ!!」
トロル、リザードマン、グール、バーグラー、ヘルハウンド等、数えきれない程のモンスターが私に向かって殺到する。
吹雪で屋敷の裏庭にどれだけのモンスターが居るのか、視認できないけど、とりあえずこいつらを利用させてもらう。
流石に廊下に穴が開いたままだと、次から次にモンスターが屋敷に入りこんでしまうからね。
「ケルベニっ!! 前方のモンスター達に鬼火をっ!!」
「■■■■ぉぉ■■■■ぉぉ■■■■――――――――ぉぉぉぉぉ!!!!」
ケルベニが耳を塞ぎたくなるような大声で雄たけびを上げて、青白い鬼火を私が指示したモンスター集団にばらまく。
ケルベニが優秀な点の一つが、私が指示する対象に、必ず鬼火を命中させる事だ。
ケルベニは飛んでいるスズメバチに対して、その1匹1匹に鬼火を命中させる精度を持っているし、私が知る限りで、ケルベニが鬼火を外したのを見た事が無い。
「キーーーッ!!」
「ギャー!! ギャー!!」
「オオオオオオッ!!」
辺り一面、鬼火に燃えるモンスターで包まれる。
私はそれを確認すると、ケルベニに次の命令を出す。
「自殺させなさいっ!!」
「ギャヒッ!?」
「ピギャアアッ!?」
「ウキィィッ!?」
私がケルベニに指示を出すと同時に、鬼火に包まれた数百体のモンスターが、一斉に舌を噛みきった。
舌を噛みきったモンスターは、舌根が喉を塞ぎ、次々と窒息死していく。
そして屋敷の前には、大量のモンスターの死体で埋め尽くされてしまった。
「よし!」
私の狙いは、屋敷に近づいたモンスターで死体の山を作り、屋敷への進入を阻害する壁を作る事だ。
現実、これで他のモンスターは、死んだ仲間の死体が邪魔になって、屋敷への進入を、迂回せざるを得なくなってしまった。
「次に、屋敷の消火活動を行うよう、あのトロル達を狂信させて下さい!」
「■■■■ぉぉ■■―――――ぉぉぉ!!!!」
次に私は数匹のトロルに対し、鬼火を送る。
こいつらには、重要な役目がある。
モンスターが屋敷に進入しなくても、火が回って屋敷が焼け落ちてしまったら、本末転倒だ。
ケルベニの精神攻撃を受けた数体のトロルは、機敏な動きを取りながら、燃える屋敷の消火活動を行い始める。
方法は至って原始的で、台所の横にある井戸から水をくみ上げて行く、バケツリレーだ。
この井戸は確か裏庭の井戸の水を引き入れている簡易なものだけど、水量はそれなりに多かったはず。
屋敷の消火については、これで問題ないだろう。
「よし! これでケルベニは一旦、引いて下さい!」
「■■■■ぉぉ■■―――――ぉぉぉ!!!!」
私はモンスターが屋敷へ容易に進入できなくなったのを確認すると、直ちにケルベニの具現化を解除する。
理由は、SPの問題だ。
実はケルベニとライオロスの2体を具現化してわかった事だが、ケルベニはライオロスに比べ、かなりのSP喰らいだ。
今の私のSPは『E』なので、恐らくケルベニを10分程度は具現化させる事が可能だろう。
これに対し、ライオロスだと1時間くらいは具現化が可能になる。
ケルベニの精神攻撃は多様性が有るので、かなり便利なんだけど、SPの消耗と言う点では頂けない。
モンスターとどれだけ戦う必要があるのか想像ができないし、消耗の激しいケルベニは「ここぞ!」――と言う時にしか、使わないようにしたい。
「我が魂に宿りし力のタロットよ、今ここに顕在せんっ!!
グリモワール・スプレッドっ!!」
「ガアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
ケルベニとの入れ替わりに、私はライオロスを召喚し、その背中にポスンと座る。
そして私は、ライオロスに自殺させたモンスターの死体を飛び越えさせて、裏庭のモンスター達と対峙した。
「キーーーッ!!」
「ギャー!! ギャー!!」
「オオオオオオッ!!」
屋敷から裏庭に出た瞬間、モンスターの波が私に向かって近づいてきた。
近づいてきたのは、人面蜂、スカルデーモン、ワイバーン等の、飛翔系のモンスターだ。
流石に私が屋敷の前に死体の壁を作っても、空を飛んでくる奴らはどうしようもない。
せっかく壁を作ったのに、空を飛べるとか卑怯……なんて、口が裂けても言えないか。
私も空の住人だし、別の立場で同じことをやられたら、私も同じ事を行うだろうしね。
「ライオロス!」
「ワカッテ……イル……ゴシュジン……。
ガァァァァァァッ!!」
「ギャッ!?」
「ピギッ!?」
「ヒアッ!?」
一閃だった。
って言うか、私の眼にはライオロスが何をしたのかも、目視できなかった。
気が付いたら、ドシュン! ――って音が聞こえて、飛翔していたモンスターがボトボトと地面に落ちて行く。
よくよく見ると、そのモンスター達の首から上が消し飛んでしまっている。
どうやらライオロスは神速の一撃にて、飛翔していたモンスターの首を、跳ね飛ばしたみたいだ。
流石、物理の化物だね。
しかもライオロスの槍は自由自在に伸びるので、距離感というものが問題とならない。
攻撃力も、攻撃する速度も、もうなんか異次元に凄くて、私では到底ついて行けない。
「ゴシュジン……サガルゾ……」
「はい?」
ライオロスが私を乗せて、屋根のある場所まで下がる。
するとかなりのタイムラグを置いて、ライオロスが跳ね飛ばした100体以上の首が、ボトボトと空から降って来た。
なるほど……だからライオロスは、私を屋根がある所まで下げさせたんだ。
私はライオロスの忠言により、空から降る首を避ける事ができた。
しかし、地上に這うモンスター達は、避ける事ができなかったようだ。
よっぽど高くまで首が舞い上がっていたのか、空から降って来た首に直撃したモンスターは、そのまま頭が陥没したり、首が変な方向に曲がったりして、動けなくなってしまう。
……確かに、頭って重いもんね。
それが大量に空から降って来たなら、無事ではすまないよね。
結果、生首の雨に直撃したモンスターの半数が即死し、半数が重傷を負った。
「……お父様との狩りが、こんな所で役に立つとは、思ってもいませんでした」
私は父さんに何度も狩りに連れ出されて、今まで100体以上のモンスターを殺してきた。
前世の私が殺す生物なんて、ハエや蚊やゴキブリ程度だったし、最初は自分の身体よりも大きいモンスターを殺す事に嫌悪感が有り、何度も嘔吐していた。
でも狩りを行う以上、生物の死は避けて通れない。
いつのまにか私はモンスターを殺す事に慣れてしまっていたし、最近では一人で解体すらできるようになっていた。
父さんは、私を狩りに繰り出して、「生物を殺す」という経験を積ませてくれた。
日本人の価値観からしてみれば、あまり必要無い価値観だろうけど、私が生きるこの世界に、日本の価値観なんて通用しない。
父さんの狩りはスペシャルハードで、毎回、行くのが嫌だったけど、今では父さんに感謝してる。
父さんが「生物を殺す」体験をさせてくれなかったら、私の肝っ玉はここまで座らなかっただろうし、死体の不気味さや罪の意識で、今頃は右往左往していたかもしれない。
「さあ! どんどん行きますよモンスター!
我が名は堕天のシルビア・メル・シ・イエローアイズ!
死にたい者から前に出て来なさいっ!!」
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