第70話 シルビアVSモンスター軍団③
しまった!
そ、そうだった!
街もモンスターで埋め尽くされているんだった!
屋敷の周りにいるモンスターを叩く事に固執しすぎていて、すっかりこの事を忘れていた!
「ゴシュジン……ニゲル……コトヲ……オススメスル……」
「逃げる!? 何でですか!?」
「ゴシュジン……SPキレ……オコス」
「あ」
確かに、私のSP総量はケルベニで10分、ライオロスで1時間、具現化が可能になる程度だ。
今日はケルベニも随所随所で召喚しているし、ライオロスも戦闘や偵察で、結構な時間、具現化し続けていた気がする。
「で、でも、あのモンスター達は屋敷に向かってきています!
あれだけの数のモンスターが屋敷を攻撃したら、それこそ屋敷は崩壊するかもしれません」
「ゴシュジン……ヒキギワヲ……ノガスノハ……チカラアルモノガ……スルコトデハナイ……。
ゴシュジンナラ……ワカルハズダ……」
引き際を逃すのは、力ある者がする事ではない。
わかってる! そんなのわかってるよ!
私はギガンタンの一件で、調子に乗って攻め続けるのは愚策って事を学んでいるんだ。
あの時の私は、ケルベニさえ居れば最強なんじゃないかって慢心してたし、自分の弱さを認める事がどんなに大切か、ちゃんとそれを学んだんだっ!
「ゴシュジン……イマナラ……ニゲラレル……。
ダガ……セントウニナルト……ニゲレナイ……」
今なら逃げられる。
だけど、戦闘になると、逃げれない。
確かに、それは私も凄く思うよ。
今まさに坂を上ってこようとしているモンスターの数は、ぱっと見でもかなり多い。
きっと戦闘になれば、私は途中でSP切れを起こすのは確実っぽい。
今なら屋敷の牢屋に降りて、地下水路に避難する事は可能だっていうのも、重々わかる。
「で、でも、私は逃げたくありません……。
ここは我が家なんです。
家を守る案が、考えれば出てくるはずです……」
「ゴシュジン……バンユウト……ユウキハ……チガウ」
蛮勇と勇気は違う?
それでも、他に何か手があるはずだ。
簡単に逃げるなんて決めてしまっては、それってただの思考停止だよね!?
私は死ぬ気なんてまったく無いっての!
でも、その逃げる事が本当に最善なのか、検討してもいいじゃないかっ!
「ゴシュジン!」
「あ、な、何をするのですか!?」
花の茎で作られたライオロスのベルトが、シュルシュルと伸びていき、私の身体を拘束する。
ちょ、何をするんですかライオロス!
私は貴方の主なのですよ!?
「コノママ……ココニイテハ……キケン……。
ゴシュジン……メイレイイハン……ユルシテホシイ……」
「ちょぉぉっ!! こらぁぁぁっ!!
離しなさいライオロスっ!!」
ライオロスはそのまま私を背中に乗せて、屋敷の中に撤退する。
私は何とか抵抗したくて、拘束している花の茎を噛み切ろうとするが、硬いゴムを噛んでいるような感じで、全然歯が立たない。
「どこへ……どこへ行くのですかっ!!」
「……サッキノ……メイド……ムカッタバショ……。
ニオイデ……バショ……ワカル」
さっきのメイドが向かった場所?
臭いで場所がわかる?
って言う事は、地下水路に向かっているのこの子は!?
「離せっ!! 離しなさいっ!!」
「ゴシュジン……アバレルト……シタヲカム……」
暴れると舌を噛む?
え? 何でライオロス、槍を持つ手に力を込め始めているの?
って言うか、地下水路に向かう井戸がある、あの倉庫の扉、まさか吹き飛ばすつもりなの?
「イクゾ……ゴシュジン……」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
叫ぶ私を意に介さず、ライオロスは地下牢に向かう倉庫の鉄扉を、槍で破壊する。
あああああ! さらに屋敷への被害が広がったじゃない!
何してくれるのさこの子はっ!!
ライオロスはさらにもう一撃、地下牢の階段が隠されてある本棚を槍で破壊して、そのまま牢屋に向かう階段を駆け下りて行く。
「ちょ、待って!
あなた、何しようとしているのですかっ!!」
「モンスター……ハイレナク……スル」
「ちょ……馬鹿っ!!
やめなさいっ!!」
ライオロスは牢屋に着くと、槍を突き立てて、階段の天井を崩壊させる。
あああ! 何してくれるんですかっ!!
確かにこれなら外からモンスターが入ってこれなくなったけど、私も出る事ができなくなるでしょ!?
もうむちゃくちゃじゃないですかっ!!
「き、消えなさいライオロス!!
もう我慢の限界です!」
「ゴシュジン……ワレハ……ゴシュジンノ……キシ……。
ゴシュジン……マモレレバ……キラワレテモ……イイ……」
そうして私はライオロスの具現化を解除する。
我は御主人の騎士? 御主人守れば、嫌われてもいい?
私の為にやってるのに、嫌いになんてならないです!
だけど、ここまで無茶苦茶やって、怒られないとは思っていませんよね?
ケルベニもそうでしたけど、この子達ってなんで術師である私の意見を無視して、勝手に動き出そうとするんですか!?
そんなにこの私は頼りないのですか!?
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