第64話 友達の心
イエローアイズ領の領都ロアニールの街に初雪が降った夜、とんでもない事が起こった。
この私、シルビア・メル・シ・イエローアイズは、九尾を有す少女ベルディアに、屋敷がモンスターに囲まれている事を教えられた。
その後、私は有ろう事か屋敷の結界を解除してしまい、モンスターを屋敷に進入させてしまう。
私は召喚獣を引き連れて、屋敷を囲むモンスターを退治しようと思ったが、流石にベルディアを危険な目に合わす訳にはいかない。
ゆえに、私は父さんを叩き起こしてベルを保護してもらおうと思ったのだが、よっばらってた父さんは人の話を聞かず、武器なしの丸腰で、フラフラと屋敷のバルコニーから飛び去ってしまったのだった。
◇
「な、何考えてるんですかあの人はっ!
丸腰で飛び立って、どうしようって言うんですかっ!!」
「ね、ねえシルビア!?
ぼ、ボク達どうする!?」
「ちょっと待って下さい!
ケルベニ。とりあえず一旦、具現化を解きますよ?」
「■■ぉ――ぉぉ」
ケルベニは軽く雄たけびを上げると、霧が発散するように消えて行った。
そして私はケルベニをポケット版で再召喚して、コートの隙間に潜り込ませる。
流石にケルベニを大きいままにしておくと、移動ができないし、とりあえずはこれで良いだろう。
「し、シルビア?!
召喚獣って、小さくできたりもするんだ!?」
「内緒にしておいて下さいよ?」
「う、うん。
でも召喚士って、何でもありなんだね……」
何でもありなら、私もここまで苦労していない。
まぁ、とりあえずは今からどうするかを決めないといけない。
父さんが私の話を聞いていれば、もっと選び得る選択肢は増えたのに、これで私達の取る行動がかなり制限されてしまった。
「ベル、貴方は戦闘とか得意ですか?」
「戦闘? えっと、どうだろう?
実戦はまだだけど、戦闘訓練は得意な方だったよ?」
「実践はないのですか?
モンスターの狩り程度で良いのですが……」
「狩り!? ないないない。
って言うか、魔都でそんな危険な事したら、外に出してもらえなくなっちゃうよ!」
むぅ……そうかぁ……。
流石に生物を狩るという経験が積めてない以上、ベルを戦闘に連れて行く訳にはいかない。
となると、ベルを何処か安全な場所に避難させる必要がある。
でも屋敷の中でそんな場所が有るのか今は微妙だし、どうしよう?
私の気持ちはモンスター退治に出る気満々で、本当は今すぐにでも、奴らが居る1階に駆けつけたい。
モンスターを屋敷に招き入れたのは、私の落ち度だ。
こうしている間にも、モンスターは屋敷の何処かで破壊活動をしてるだろうし、モタモタしてたらどんどん屋敷が壊されてしまう。
「ねえ、イエローアイズ領の魔王軍って、屋敷の近くに駐留地があるんでしょ?
そこに駆け込むってのは?」
「駆け込むにしても、一旦外に出る事になります。
屋敷の中にモンスターが進入してしまった以上、あのモンスターのどうにかしないといけません」
「あ、そうか……」
これが屋敷にモンスターの進入を許していないのなら、それも一つの手だと思う。
でも今となっては、屋敷を留守にしてしまったら、その間にモンスターが屋敷をしっちゃかめっちゃかにしてしまう。
流石にそれは避けたい。
「ううん……仕方がありませんね……」
「シルビア?」
ここは……誠に……誠に不本意だけど、私も一旦ベルと一緒に逃げて、ベルの安全が確保されるまで、私がベルのボディガードに努めよう。
それでベルの安全が確保され次第、私だけモンスター退治に向かおう。
ベルを危険に晒さない為には、この案しかない。
「ううう……一応、決まりました……。
モンスターは一旦、放置して、私たちは逃げましょう……」
「え!? に、逃げるの!?
シルビア、戦わないの!?」
「……ベルを、危険な目に合わせる訳にはいきません。
貴方はイエローアイズ家の大切なお客様です」
「シルビア。
もしかして、ボクが足手まといになると思ってる?」
「それは……」
「ボクなら大丈夫だよっ!!
戦おうよシルビアっ!!」
「……だめです。
もう一度言いますが、貴方を危険な目に合わせる訳にはいきません。
もし戦闘になれば、私はモンスターの近くまで行って、召喚獣に命令を与え続ける事になります。
という事は、貴方もモンスターとの戦いに巻き込まれてしまいます」
「何でだよシルビアっ!
ボクだってそれなりに戦えるんだっ!!
シルビアも戦いたいんでしょ?」
そのベルに問いかけに、私は言葉が詰まってしまった。
ベルの言う通り、私はモンスター退治に固執している。
屋敷へのモンスターの進入を許してしまったのは、私の責任だ。
私はどうにかしてその責任を果たす為、モンスターとの戦闘に踏み切りたいんだ。
「……何故、ベルはそんなに戦いたがるのですか?
これは私の領地の話です。
ベルには直接的には関係が無いとは思うのですが……」
「お、怒るよシルビアっ!!
友達が困ってるのに、黙って見ていられる訳が無いじゃんかっ!!」
「友達だから、戦うのですか……?
ベルは生物を殺した事が無いのでしょう?
これはとても危険で、負担の大きい事なのですよ?」
「でも、隣にはシルビアがいる!
ボクはシルビアを信用してる。
シルビアが傍に居れば、モンスターなんて怖くないよ」
……何でだろう?
何で私は、この子にこんな信用されているんだろう?
私この子に、そんな信用されるような事、していないとおもうんだけど……。
「……何でベルは、そんなに私を信用するのですか?
私とあなたは、今日出会ったばかりなのですよ?」
「……友達だから」
「はぃ?」
「だって、友達だもんっ!
シルビアはボクの友達だもんっ!」
「……それだけですか?」
「それだけって何だよっ!!
友達は信用してこそ、友達同士になれるんだよ?
だから、ボクはシルビアを信用してる!
シルビアと一緒なら、モンスターなんて怖くないよっ!!」
理由は、友達だから信用する……か。
なんか、ガツン――と、頭を殴られたような感じがしたな。
今の私は前世から記憶を持ってきているので、主観年齢は大人そのものだ。
私は大人になって、嫌な事もいっぱい経験して、幼少期のような純粋さなんて失くしてしまった。
だから、ベルのような純粋さに、懐かしさを感じてしまった。
昔は私もベルみたいに、純粋だったのだろうか?
私もベルみたいに、無条件で他人を信用していた時期があったのだろうか?
私の顔を真っ直ぐに見る、そのまぶしい目つき。
私は、ベルのような心の有り方を、素敵だな――――と、心の底から思ってしまった。
「……ありがとうございます。
ベルの気持ち、痛いほど受け取りました」
「じゃあ……」
「でも、それでも、私はベルを危険な目に合せる訳にはいきません。
私は私の都合で、友達を危険な目に合わせる訳にはいきません」
「シルビアっ!! まだそんな事言って……」
「ケルベニ。
ベルが戦闘を避けるよう、狂信させて下さい」
「■■ぉ――ぉぉ」
「し、シルビア!?」
そうしてベルディアはケルベニの鬼火に包まれ、私はベルを強制的に避難させる事にする。
もし上手い避難先が見つかれば、そこにベルを置いて、私だけでも戦闘に出よう。
「とりあえず、貴方だけでも逃がします。
そしてベルを逃がした後で、私だけが戦闘に出ます。
ベル、納得してください」
「う……ううっ!
わかったよ! 逃げれば良いんでしょ!
シルビアのばかぁ!」
友達は信用してこそ、友達同士になれる……か。
ベルが友達の為に戦うと言うのなら、私は友達を危険な目には晒したくなんて無い。
だから、私の事は突き放しておいて、ベルは安全な場所に避難してほしい。
ごめんね、ベル。
私、ベルのような綺麗な心、憧れるよ。
だからさ、こんな私だけど、ずっと友達でいてね。
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