第29話 幕間②
「あなた。
あの人間達、何か白状した?」
「駄目だな。
いろいろと手は尽くしてみたんだが、全然喋らねぇ」
今この俺、ザンドルド・フォン・カム・イエローアイズは屋敷の地下に有る牢屋に来ている。
目的は俺の娘、シルビアの誘拐未遂を企てたボンクラ共を拷問し、事の真相を追求するためだ。
ホシ共の自白から、ギガンタンを放ったのが奴らだという事まではわかった。
と言うか、これは拷問に入る前に奴らが自分から自白した。
だが、なぜシルビアを誘拐しようとしたのか、ギガンタンなんざどこから連れてきたのか、他に仲間がいるのか、そんな所は口を閉ざして、どうにも要領が得ねぇ。
「あなた、拷問下手ですものね。
私が変わりましょうか?」
「ドアホ。
俺よりお前の方が拷問下手じゃねぇか!
お前が拷問を掛けたボンクラ共の8割が死亡で、2割が意識不明だぞ!」
「何よ。セリカよりマシよ」
「まぁ……セリカはな。
あれは拷問と言うか、ただの憂さ晴らしだ。
流石に拷問即死率10割の伝説は誰にも敗れん」
奴らが何かを隠しているのはわかってる。
だが、正直に言おう、俺は拷問が下手だ。
とはいえ、妻のローザやセリカの馬鹿に比べたら、俺は遥かにマシだ。
あいつらに比べたら俺の拷問致死率は5割程度だし、意識不明も1割程度だ。
こんな自白作業とか使用人に任せてぇんだが、運悪く、他の使用人も拷問がド下手だ。
そんなこんなで領主である俺自ら、ボンクラ共を拷問しているのだが、正直言って、イライラしてくる。
と言うか、拷問なんてチマチマした作業、俺に求めるのが間違ってんだよ。
「拷問で、何人死んだの?」
「今のところ一人も死んでねぇよ。
手加減してる」
「あ、あなたが手加減!?
嘘つかないでよ!
もしそれが本当だったら、あなたはザンドルドの偽物よ?
いつから偽物にすり替わってたのよ!」
「いや、どんだけ俺、信用されてねぇんだよ」
俺はこの地域の領主だぞ?
先日も冤罪で酷い目に合ったし、俺の権威や面子はどこに行ったんだ?
「で、人間達はシルビアを誘拐しようとした動機は話さないのよね?
もしかしてあなた、生ぬるいんじゃない?」
「バッ……それでも、爪剥いだり、鼻削いだり、それなりにはやってんだぞ!
あまり無茶やりすぎると、後に使いモンにならなくなるだろ!」
「使い物……?
まさかあなた、彼らを処刑しないの!?」
「まぁ……な。
お前の言う通り、処刑は止めておこうと思ってる」
「偽物っ!」
「あ? 何?」
「あなたはやっぱり、ザンドルドの偽物よっ!!
私の夫が人間なんかに情けをかけるなんて、有り得ないわっ!!」
ローザの右眼の魔眼が光り始める。
このドアホ!
長年連れ合った夫を間違えるとか、何考えてんだ!?
「私の夫を何処に隠したの……」
「堂々とお前の前にいるだろーがっ!」
いや、待てって!
髪の毛を騒めかせるな!
お前が怒るとマジで怖いんだからな!
「あ、あいつらは処刑じゃなくて、終身労働の刑に処そうと思ってんだよ!」
「終身労働?」
「死ぬまで鉱山内で鉱石を掘り、外に出る事は許さねぇ。
風呂に入ることも、休むことも許さねぇ。
唯一、疲労で気絶した時だけ休ませてやる。
そんな刑だ」
これはシルビアの誘拐未遂事件以降に考えた刑罰だ。
確かにローザの言う通り、以前の俺なら問答無用でボンクラ共を処刑していただろう。
だが、俺はシルビアに諭されて、考え方を変えたんだ。
「人は城、人は石垣、人は堀、だ」
「は? 何よそれ」
「人間に対して恨みを持ち、ぶっ殺すのは簡単だ。
だが、どうせぶっ殺すのなら、魔族にとって害になる殺し方はするな。
人間を使い潰して城を立てろ。
人間を使い潰して石垣を造れ。
人間を使い潰して堀を掘れ。
処刑にするなら、出涸らしのようにボンクラから利益を吸い上げた後でも、遅くはねぇはずだ」
「何よ……。
その素晴らしい考え方は……」
「だろ! 素晴らしいだろ!
初めてこれを聞いた時は、背筋がゾッとしたぜ!
身も精神も粉々になるまで使い潰し、そして最後には処分する。
スッゲー愉快じゃねぇか!?」
「良いわね! その考え方!
今後その方針をイエローアイズ家の家訓にしましょうよ!」
「当たり前だ!
もちろん俺はそのつもりだ!」
人は城、人は石垣、人は堀。
何度聞いても良い言葉だ。
こんなスゲェ名言を言うとは、我が娘ながら、シルビアは末恐ろしすぎるぜ!
「まぁでも、とりあえずは拷問を進めて、事の真実を自白させねぇとな。
人を石垣にするのは、その後だ」
「そうね。それが先よね」
そうして俺は人間どもに、拷問を再開する。
すると一人のボンクラが、ようやくシルビアを誘拐しようとしたのか、自白した。
どうやら俺が街で脅したマカド子爵が誘拐計画を企て、俺への復讐の為にシルビアを誘拐しようとしたらしい。
俺はそれを聞いて、流石にブチ切れた。
自慢じゃねぇが、俺は気が長く、虫も殺せない程の優しい性格だと思ってる。
そんな俺が、自白したボンクラの脊椎を、脳ごと剥ぎ取りかけたくらい、激怒したんた。
そんな残酷な事、今まで数回しかやった事ねえってのによ。
てな訳で、俺はマカド子爵のみ、処刑にする事に決めた。
方法? 聞かねぇ方がいいなぁ。
俺を恨んで娘が狙われるとか、腸が煮えくり返るどころか、一週して気分が落ち着いてくるぜ。
誘拐の動機についてはわかったが、結局ギガンタンをどこから連れてきたのかは、わからなかった。
限界ギリギリまで俺も拷問をかけたんだが、どうやら奴らは本当に知らないらしい。
まぁ、その件にだけは、やたら口が堅いって事も考えられるがな。
ちなみに、街の捕虜たちが武器を持つ事や、街の外に出る事は禁じられている。
自白によると、武器はこっそりと隠し持っており、街の外に出れたのは、監視の隙を突いたとの事だ。
……正直、腑に落ちない点も多いのだが、まぁいい。
これ以上ヤンチャしちまうと、本当にボンクラぁ、死んじまうからな。
あんな奴らでも、俺らに対する益虫になるんだ。
簡単に死ねると思ったら、大間違いだっつーの!
◇
「お父様」
「あ? んだよシルビア」
「えっと、“俺は気が長く、虫も殺せない程の優しい性格”ってところ、撤回してもらえませんか?」
「あぁ!? てめぇシルビア!
俺が短期だって言いてぇのか!?」
「……お父様らしい反応、ありがとうございます」
なんだよ!
俺ってそんな短気かぁ?
あまり人を外見で判断すんじゃねーよっ!!
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