第27話 エピローグ③

「■■■ぉぉぉ■――――■■ぉぉぉ!!」


「うおっ! 吃驚した! 

 ちょ、こいつ……心臓に悪ぃから、いきなり吠えるんじゃねぇよっ!!」


 なんか、ケルベニの狼の頭の方が、私にスリスリと甘えて来た。

 うん? もしかしてお前は私を励ましてくれてるの?


「な、なぁ……シルビア?

 そろそろ、この召喚獣の事を紹介してくれないか……?

 その……誠に言いにくいのだが……」


「心臓に悪いって言いたいのね?

 セリカ」


「ああ、いや!

 何をいうローザ!

 いや……まぁ……間違ってはいないのだが……」


 ん? 何だろう?

 なんか皆の反応がおかしいかも?

 まぁ、もちろん紹介はしようと思っていたけど。


 狼と犬の二つの頭を持ち、ザリガニの胴体を持つ。

 ザリガニの胴体には黄色い顔が描かれ、その顔を挟み込むようにして二本の角が生えており、動く度に周囲に鬼火をまき散らす、私の召喚獣。


「ケルベニって言います。

 可愛いと思いませんか?」


「■ぉ■――――ぉ■ぉぉ」


 私は召喚したケルベニの背中に、ポンと座る。


「「「…………」」」


 って、あれ?

 なんか皆の顔が引きつっているんだけど、何で?


「か、かわいい……だと?

 こ、この化物を……?

 どれだけ俺の娘は、趣味悪ぃんだよ……」


「……お母さんは魔眼でシルビアがこの子を召喚していたのを何度も見てるけど、未だに生理的に受け入れられないわ……」


「お、お姉ちゃんは、かか、可愛いと思う……ぞ! う、うむ!」


「セリカ。

 やせ我慢はやめなさい?」


「な! やややや、やせ我慢など……」


「じゃあ貴方、シルビアみたいに、この子の背中に座ってみなさいよ」


「ふ、ふざけるなローザ!

 そんな身の毛もよだつ事、できる訳……ハッ!?」


 え!? 何みんな、その反応!?

 ちょっと想定外なんですけど!


「ほら、この眼とか見て下さい!

 このつぶらな眼、凄く可愛いではありませんか!

 何故この可愛さが、皆にはわからないのですか!?」


「い、いや、ちっと待てシルビア。

 テメェには悪いが、これは流石に……」


「……ああ。

 もう白状するが、お姉ちゃんもコレを可愛いとは思わない……」


 なん……だと……。

 いや、確かに私も最初はどーよとか思ってた時期があったけど、魔族な考え方に感化されて、かなり可愛いって思えるようになったんだよ?


 ……と言う事は、可愛いと思ってたのは、私だけ……?

 別に魔族関係なく、私以外はケルベニを不気味と思っているの……?


「■ぉ■――――ぉ■ぉぉ」


「け、ケルベニぃ!!」


 そんな悲しそうな声で泣かないでよ!

 私はお前の事を不気味なんて思っていない!

 私はお前の味方だからねっ!!


「も、もういいわ、シルビア。

 貴方の凄さは皆も十分に堪能したから、この子、消しても大丈夫よ」


「は、はい……」


 私は名残惜しくも、ケルベニの具現化を解く。

 かなりショックだ。

 まさかこの子を可愛いと思っていたのは、私だけだったなんて……。


「な、なぁ、ローザ。

 アレはいったいどのような生物なんだ?

 お前はシルビアがアレを呼び出しているのを、前々から知っていたのだろう?

 あの生物が何なのか、調べたりしていないのか?」


「私も良く知らないけれど、なんでも雄のケルベニは、ギガンタンを捕食するとか……」


「な、なにっ!?」


「マジかよローザ!」


 ちょっと吃驚した。

 雄のケルベニはあのギガンタンを捕食する?

 私のケルベニって雌なんだけど、って言う事は、雄のケルベニより少し弱いの?


「まぁ……本当かどうかは私も知らないのだけど、私が調べた本によると、そう書いてあったわね。

 と言うか、調べない限り、私もこのような生物が存在していたなんて、知りもしなかったけどね……」


「そうか……だからあの時、ケルベニの声が聞こえて、ギガンタンが怯えたのか……」


「セリカ、どういう事?」


「ああ、いや。

 ギガンタンと戦っていた最中の話なんだが、その時に……ケルベニだったか?

 こいつの雄たけびが聞こえたんだ。

 それを聞いたギガンタンが、戸惑いを見せたというか、あきらかに怯んでな。

 もしケルベニがギガンタンを捕食していたというのなら、ケルベニは奴らにとっての天敵だ。

 ようやくその謎が解けたというか、ケルベニがギガンタンを捕食していたのが納得いけるというか……まぁ、そんな話だ」


 うーん。

 よくわからないけど、ケルベニの鳴き声がギガンタンとの戦いで、何かしたみたいだね。

 確かにケルベニって、鳴き声だけは一丁前にうるさいんだよね。


「おい、シルビア。何でテメェ、こんな化物、呼び出す事ができんだ? 

 どこで召喚スキルを知った? 

 どこでこんな化物を手に入れやがった!?」


「いえ、そう言われても……。

 生まれつき?」


「生まれつきって……。

 てめぇさぁ……」


「いえ! お父様!

 本当なのです! 

 急に私も召喚スキルを覚えて、それで呼び出したのがケルベニなのです! 

 まさか、こんな可愛い愛娘を疑っているのですか!?

 信じて下さい!」


 や。神様の事とか、かなり内容を端折ってるけど、嘘は吐いていないはずだ。


「自分で可愛いとか言うなや……」


「まぁ……私はずっとシルビアの事を魔眼で見ていたけど、嘘は吐いていないわね……。

 なんか腑に落ちないのは確かだけど」


「シルビア。

 一つ聞くが、他に何か召喚できたりはしないだろうな?」


「私が召喚できるのは、ケルベニだけですが……?」


「本当だな?

 後から違うのも召喚できましたとか言ったら、流石にお姉ちゃんキレるぞ!」


 キレる言うなよ。

 本当に私はケルベニしか召喚できないんだって。


 私の召喚スキル『グリモワール・スプレッド』に召喚獣を追加するには、特殊なタロットカードを引かないといけない……って、あれ?

 何か忘れてるような気がするんだけど、何だったっけ?


「あ、そうです!」


「何だシルビア!

 他にも召喚できるのか!?」


「私には占いのスキルが有ります。

 Fですが」


「え、Fって……」


「あのな、シルビア。

 Fランクの占いなら、それはただの趣味だ。

 そんなもん、スキルの内に入らねぇ」


 なんだよ!

 私にとって占いは前世からの因縁に起因する、大切なスキルなんだぞ!

 確かに私のスキル欄には、下手の横好きとか書いてあるけどさあ、馬鹿にしないでほしいんだけど!


「他に隠していることは無いな?」


「あ、そうです!

 私、飛翔のスキルを持っています!」


「「「それは知ってる」」」


 ぶー。なんだよ。

 あと隠していると言えば……生い立ちとか神様の件を除外すれば、もう、ない……かな? たぶん。


 と、その時だった。

 屋敷の方から、執事長のバトラスが走って来るのが見えた。


「ああ!? バトラス!?

 てめぇ、今はここには来るなって言ったろ!」


「そ、それが……旦那様……その、お客様がお見えです」


「客ぅ? んなの追い返せや!

 今俺は忙しぃんだよ!」


「そ、それが、ま、魔王様の勅使でして……」


「なっ!? 魔王の!?」


 ん? なになに?

 どういう事なの?

 勅使って、使者の事だよね?

 それに、魔王様?

 よくわかんないんだけど、それって凄い事なの?


「お、おい。ザンドルド。

 直ぐに行った方が良いんじゃないか!?」


「そ、そうよあなた!

 ま、魔王様の勅使に失礼があったら……」


「チ……わかった。

 直ぐに行く。

 それまで、適当にもてなしとけ」


「は、はいっ!

 畏まりました!」


 結局、急な来客で、私のスキルお披露目会はお開きとなったようだ。

 そうして私も、皆と一緒に屋敷に帰る事になる。


「あっ!」


「どうしたのシルビア?」


「あ、いえ、何でもありません!」


「? そう?

 何かあったら、直ぐにお母さんに言うのよ?」


 そうだった。

 私すっかり忘れてた。


 『グリモワール・スプレッド』に召喚獣を追加するための、タロットカード。

 誘拐未遂事件の時に来ていたコートの中に、入れっぱなしじゃん!


 ロアニールの街に初雪が降った、初冬の日。

 私の家に、魔王様の勅使がやってきた。

 そして、私の運命はその日を境に、大きく動き出す事になる。


 イエローアイズ領に反乱が起こる、13時間前の出来事だった。

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