第25話 エピローグ①

 私の誘拐から1週間が経過した。

 あの後私はSPが回復する時間にキッカリ目を覚ましたのだが、父さんと母さんとセリカと執事&メイド衆が、私が眠る姿をじーーーーーっと覗いていた。怖い。


 目を覚ました瞬間に母さんから抱き着かれ、父さんから頭を撫でられ、セリカにも抱き着かれ、執事&メイド衆には大泣きされた。

 それで私がこの屋敷の皆にどれだけ愛されているか、十分すぎるほどわかった。嬉しい。


 私を誘拐しようとした人間たちは、私から逃げた後に運悪く、父さんとセリカに捕まってしまった。

 その後はどうなったか、私は知らない。

 ギガンタンのその後もそうだ。

 父さんも母さんもセリカも、誘拐犯とギガンタンの事は口を閉ざして、私に教えてくれないんだ。


 と言うか、私かなりの人間を殺しちゃったよね……。

 あの時は私もアドレナリン出まくってて、かなり気分が躁になってたけど、気分が落ち着いた後は、可哀想な事をしたな……と、反省した。

 あれ以来、私にとって魔族とは何なのか、人間とは何なのか、ちょっと哲学的に悩んでたりする。

 こんな時にグー○ルがあれば、悩みを検索できるのにね……。


 さて、そんな感じの毎日だけど、一つだけ気になる事がある。

 実は、私が召喚士である事が、母さんにばれた。

 と言うか、バレてた!


 母さんの右目の魔眼は、熱を操る魔眼だって事を知っていたけど、左眼の魔眼はどんな能力があるのか、知らなかった。

 聞くところによると、母さんの左眼の魔眼は遠視・透視の魔眼らしく、実は私が裏庭でケルベニを召喚しているのを、魔眼で最初から見ていたらしい。

 母さんは私の自主性を重んじて、私が危険な事になるまで、暫くは様子を見ようと思っていたらしいけど、今回の一件で、家族とセリカにだけでも公開しろと怒られた。


 今まで5歳の子供があんなスキルを使うのは不自然だろうという理由で、私も隠していたけど、事ここに至っては仕方がない。

 どうせいつかは家族にばれるだろうと思っていたし、こうなったら開き直って、私は召喚士です! って風に、開き直ろうと決心したのだった。









「どうぞ、安らかにお眠りください」


 私は今、裏庭に建てられたお墓の前に居る。

 墓に眠っているのは、私の愛馬ダンテと、父親の愛馬レクールだ。


 ダンテはギガンタンが現れたあの切通しで、ゴブリンに首をもがれかけて、死んでしまった。

 父さんにダンテを与えられて、1年もたたないけど、正直かなりショックだ。


「シルビア。

 気は済んだか?」


 私の背後からセリカが声を掛けてきた。

 あの誘拐未遂事件以来、どこに行くにもセリカが跡を着いてくる。


 トイレに行くにも付いてくるし、今までみたいに、一人で裏庭に行く事なんて、もう不可能だ。

 スキルの練習ができなくなったのは若干痛いが、セリカと一緒に入れるなら、べつにいっか。

 ――ってな感じで、今はスキルの練習を休んでいたりする。


「ええ。付き添わして申し訳ありませんね。

 気が済みました」


「何をいう。

 謝るのはお姉ちゃんの方だ!

 お姉ちゃんはシルビアの護衛なのに、シルビアを危険な目にあわせてしまった。

 こんな事では、護衛失格だ」


 セリカの顔が、泣きそうな顔に変わる。

 私の誘拐未遂事件はセリカの所為ではなく、どちらかと言えば父さんが不要な威圧を街で行った事が発端だ。

 それにギガンタンなんて化物と戦う場に私が居ても、ケルベニの能力はギガンタンには効かないみたいだし、危険はそっちの方が大きかった。

 セリカに落ち度なんて、ひとかけらも存在しない。


「あら? シルビア、随分早いのね。

 待ち合わせの時刻はもう少し後のはずだけど?」


 その時、母さんに声をかけられた。

 外に出ても相変わらず母さんは長い髪をズリズリと引きずって歩いている。

 初冬の時期は落ち葉が凄いので、母さんが裏庭を歩くと、もれなく落ち葉が道の側道に寄せ集められる。

 一度それ、狙ってやってるのか、聞いてみたい気もする。


「ダンテの墓参りをしていたのです」


「ああ……ダンテの」


 母さんは私に近づいて、そのままギュっと抱きしめてくれる。

 ありがとう母さん。

 私ショックを受けてはいるけど、大丈夫だから。

 でも慰めてくれて嬉しいよ。

 母の愛情を感じるよ。


「ういっす」


 父さんの寒そうな声が、裏庭に響く。

 街を視察している父さんが屋敷に帰ってきたみたいだ。


「遅かったわねあなた。

 街の様子はどうだったの?」


「初雪が降ったからな。

 静かなもんだ。

 まぁこの時間は鉱山に出てるボンクラが多いからな。

 大した問題はねぇよ」


 私の誘拐未遂事件以来、父さんは街の視察を2~3日に一回から、毎日行う様になった。


 街の治安が悪いと言っても、流石にギガンタンなんてモノをもって来るような人が領内をウロウロしているとか、やりすぎだと父さんも感じたらしい。


「まぁ、気になったのは川の水が少ない事ぐれぇだな。

 いくら冬でも、上流の湖が凍るのはまだ早ぇはずだが……」


「今年の秋は雨も少なかっただろう?  

 ただ単に水量不足って事ではないのか?」


「まぁ……だよな。

 気にすぎだな。忘れてくれ」


 うん? なんかよくわからけど、上流の湖、もう凍っちゃったの?

 去年に比べて初雪も早いし、今年の冬は寒いのかもしれないなぁ。

 やだやだ。


「さぁ。これでみんな揃ったわ。

 シルビア、貴方の力を見せてくれるかしら」


 寒さに耐えきれなくなったのか、母さんが合いの手を入れた。


 今回、私とセリカは愛馬の墓参りも兼ねているのだが、みんなが裏庭に集まったのは、私のスキル公開についての理由の方が大きい。

 そう。私のスキル公開は、実は今から行われるのだ。


「わかりました。

 では、行きます」


 私がそう言うと、母さんが「ええ、お願い」なんて言って、頷いた。

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